矢野虎と原Gの差は「勝負への執着心」…小山正明氏が東京D3連敗を分析

 先週末の巨人3連戦(東京ドーム)で、矢野阪神は無念の3連敗を喫した。巨人戦3連戦3連敗は今季4度目で1963年以来、56年ぶり2度目の屈辱。首位相手に一かけらの意地も見せられなかったふがいない戦いぶりに、現役通算320勝のレジェンド・小山正明氏は「情けない!」と嘆いた上で、巨人との差について「監督の勝利に対する意欲、執着心の違いだろう」と断じた。CS争いからも脱落しかねない状況だけに、残り30試合は1試合1試合が正念場となる。

  ◇  ◇

 ことここに至っても、かすかな希望と期待感は持っていた。借金4で迎えた首位巨人との3連戦。いくら敵地・東京ドームとはいえ、相手先発が3年目の桜井、新人の高橋とくれば、何とかなるかもしれない…。しかもこちらは安定感抜群の高橋遙と西だ。連勝すれば最後の山口だって撃破できる確率は高まる。イッキに3連勝で借金1だ-。これ、とんでもない「妄想」だった。結果は正反対の3連戦3連敗。何と今年巨人に4度目の屈辱である。実に1963年以来、56年ぶりだという。全く、お話にならない。

 いつものように小山正明氏の携帯を鳴らす。今回はどんなボヤキになるのか想像しながら待つと「きょうは3-6か…」と低い声が飛び込んできた。怒りを通り越した呆れ、が言葉にこもっていた。ただ、いつに増して語気は強かった。その理由は、5年ぶりのリーグV奪還にひた走る巨人・原監督の「勝利への執着心」を見せつけられたからだった。

 -言葉もない結果になりました。

 「16日の初戦を高橋遙で落としたのが痛かったわな。1点ビハインドの7回表、先頭の高橋遙をそのまま打席に立たせたのが議論を呼んだが、僕はやむなし、とみた。確かに1点を追わんといかんのやが、彼の投球内容とその後の継投ことを考えると(矢野監督の)決断はあり、やろう。ただ、それもいつもの貧打で台無しやわな」

 -初戦を逆転で取られた後はいいところなしの3連敗。同じチーム相手にシーズン4度目の3連戦3連敗ですから萎えますわ。

 「巨人・原監督の勝利への執念、意欲というものを痛烈に感じたね。2戦目(17日)の六回裏やったかな。無死一、二塁のチャンスで5番のゲレーロにバント(記録は捕犠)させたやろう。1点をリードしているんやし、5番に据えた助っ人なら打たせてええわけやけど、それにバントを命じたのは何としても追加点を取るという原監督の強い意志の表れ。あれを見て、三塁ベンチの矢野監督や阪神の選手達は何を感じたか。優勝という大目標のある巨人と、CS争いからも脱落しかかっている阪神の差はその辺にあると思ったよ」

 数年前、原監督に単独でインタビューしたことがあった。そのシーズン終盤、阪神戦で絶好調だった4番・村田(現2軍打撃コーチ)に同様のケースでバントさせたことについて理由を聞いたら、原監督は『勝ちに近づくにはそれが一番だったから』と答えた。試合はそれを端緒に巨人が大量得点を奪い、阪神に圧勝、そのまま優勝へと突っ走った。ゲレーロの犠打を見て、あの時の話を思い出した。

 敵将の“勝利への執念”に対し、矢野監督はどうだったか。優勝は無理としても、CS圏内はまだわからない。そこに向けて巨人を上回る執念を見せたのか。18日の3戦目、1点差に迫った七回裏にジョンソンを投入したのはその表れかもしれないが、ならば前の17日、同じ1点ビハインドの七回になぜ彼を使わなかったのか。また、得点力不足の打線にどんな工夫を施したのか。試合だけを見る限り、残念ながら工夫の跡を感じることはできなかった。

 -捕手出身の矢野監督には大いに期待していました。大阪人らしい明るさに加え、あのノムさん(元阪神監督・野村克也氏)に仕込まれた“捕手的嫌らしさ”で相手に圧力をかけてくれると思ってたからですが…。その点で言うと、少し期待外れの感は否めません。

 「監督の采配で言うと、何で大山を4番から下げたんや?という疑問がある。あれだけ我慢強く4番で使っていながら、何で今さら下げるのか。それならもっと早く見切るべきだったのと違うか。僕には分からんね」

 -今季残り30試合。3位・広島とは5差つけられています。打線が機能せず、先発投手陣にも疲労が見えていますが、これから阪神はどう戦えばいいんでしょう?

 「何が何でもCSには出るんや、というのがチーム全体の目標のはず。ところが、今の戦いぶりにはそれが見えん。ただ普通に試合を消化している感じしか受けんのや。もう30試合しか残ってないんやで。このあとは全部勝ちきるぐらいの姿勢でやってほしい。スタンドにはまだ多くのファンが阪神の勝利を期待して来るんやから…。選手一人一人がそれを胸に刻んでプレーすべきやろう」

 20日(火)からは京セラドームで2位・DeNAとの3連戦。優勝を目指す今季の戦いは事実上幕を閉じたが、CS突破の希望はまだ捨てたくない。連日甲子園で観衆を魅了する高校球児たちの手本がプロのはず。窮地の今こそ、猛虎に“これぞプロ”を見せてほしい。(デイリースポーツ・中村正直=1997~99年阪神担当キャップ、前編集長、現販売局長)

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