北條 CS諦めない弾 「負けたら終わり」残り5戦全部勝つ!
「阪神4-2広島」(21日、甲子園球場)
たとえ可能性がわずかでもあきらめない。阪神・北條史也内野手(25)が渾身(こんしん)の一振りで勝負を決めた。2-2の八回、1死二塁から左翼席へ勝ち越しの5号2ラン。ベンチスタートだった若虎が意地を見せ、負けたらCS進出の可能性が消滅する一戦で鮮やかに勝利に導いた。残りは5試合。どんな形でもいい。奇跡を信じ、勝ち続けるしかない。
その笑顔が、明日への希望に変わった。終わらせない、絶対に。不可能を超えていけ。北條が大きなアーチを描いた。「絶対に打ってやろうという思いがあった」。思いは白球に乗り移る。勝ち越しの5号2ランだ。足早にダイヤモンドを駆け抜けると、梅野の、西の胸へと飛び込んだ。
この日もスタートはベンチだった。それでも五回まで野手陣が無安打と沈み、出番は突然巡ってきた。途中出場で迎えた八回。1死二塁で打席に入ると、その初球だった。フルスイングでバットを振り抜く。「ここで打つしかない」-。逆風に負けてたまるか。風を切り裂いた白球は、左翼席へと届いた。
これが決勝点となり、粘投を続けた西へ、白星をプレゼントした。先輩右腕が、お立ち台で「正直、泣きそうでした」と振り返ると、隣で北條はいたずらそうに笑う。「泣きそうになるんやったら、泣いてほしい」。呼応するかのように、矢野監督も「ベンチで一番、声を出してくれている選手がああいうところで打ってくれるとうれしいですね」とにんまりだ。笑顔が、笑顔を呼ぶ一打となった。
「負けたら終わりなので。今日の円陣でも“トーナメント”という言葉があった」
逆転CSを懸けた戦いだった。目指すはこの日を含め6戦全勝。そこには、今季限りで退団が決まった鳥谷への思いがある。憧れを抱き、超えたいと誓った先輩が「タイガースのユニホームは脱ぐ」と言葉を紡いだあの日。北條は言葉に詰まった。「今言えることは…何もないです。すみません」。ずっと追いかけ続けてきた背中は、来年にはもういない。何も言葉にならなかった。
一緒に過ごした7年間は、驚きの連続だった。初めての“対面”となった、プロ3年目の春季キャンプ。宜野座キャンプに初抜てきされると、目の前で軽快にノックを受ける鳥谷の姿には衝撃を受けたという。そして同時に、自らの力のなさも痛感。その背中は、いつも頑張る指針だった。
まだ終わらせない、終わりたくない。鳥谷と過ごせる最後の時間。勝利だけがつなぐ物語の続きへ。北條は強く、強く拳を握り締めた。
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