【矢野阪神V逸の影と逆襲への光2】TG8勝の差に必要な心技体
矢野阪神は貯金1の3位で今季を終了。CSではファイナルSまで進出したが、浮き沈みの激しいシーズンだった。今季見えた課題を挙げつつ、来季へ向けた光を検証する。
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防御率3・46はリーグトップ。自責点496も他の追随を許さなかった。最終的にAクラス入りしたとはいえ、「巨人との差」=「野手の差」だと数字は語る。「まだ力がない」。守護神・藤川はCS敗退後、チームを一言で総括した。グラウンドで相対した選手、首脳陣らが痛感した4試合でもあった。
シーズンを振り返ってみれば、69勝で3位。首位巨人は77勝でトップに立った。つまり8勝の差が、そのままCSでも力の差になった。亀井から始まる巨人打線は、坂本勇、丸、岡本、阿部と続く。名前だけで震える強力打線。成熟期のG打線に対し、成長期のT打線。今季限りで退団する浜中打撃コーチはこう振り返った。
「あと1本が出ないというのは毎年言われている課題。そこは個人が考えてやるしかないんです。ここはプロの世界ですから」。なにより必要なのは経験だろう。ただ、巨人の4番で、CSファイナルSのMVP・岡本は23歳。阪神で開幕から106試合、4番を張った大山は24歳だ。
今後、嫌でも比較され、続いていく宿命のライバル関係。同コーチは「もっとできる選手」と期待する。3年目。全143試合に出場し、本塁打、打点はチームトップ。勝利打点13はDeNAのロペスに次ぐリーグ2位の数字だ。ただ、求められるのは好機での1本だけではなく、試合の流れを変える1打席。相手投手の息の根を止める一振りだ。4番にふさわしい逸材だからこそ、去る浜中コーチも強く背中を押す。
春から自主性を重んじたチーム。個々に確かな成長が見えてきた一方、選手-コーチ間の“溝”を露見する一幕もあった。7月下旬。首脳陣の1人がある選手に声を掛けた。叱咤(しった)激励のつもりが、危機感を抱く当該選手は激高。グラウンドで一触即発ムードになった。互いに強い思いが交差した形だが、そんな不満は至る所で充満した。今の時代を考えれば、選手とコーチが互いに歩み寄り、積極的にコミュニケーションを取ることも今後、必要だろう。
「技」と「体」が整えば、必要なのは「心」の充実だ。チームとしての課題は勝負どころでの1本。苦手投手を作らない攻撃だ。広島・ジョンソンにヤクルト・ブキャナン、中日・大野には1勝もできず3敗を喫した。「日々勉強。やられたら、やり返さないといけない」とは清水ヘッドコーチ。若い選手たちには、そんな気概を求める。
シーズン最終戦。矢野監督は鳥谷にスタメン出場を提案したが、鳥谷は「若い選手を使ってほしい」と固辞した。それどころか、CSメンバーから外れる選択も考えていたという。阪神一筋16年。愛したチームを思い、若い選手の経験を願った行動だ。チームとして序盤の失速、終盤の成長を糧にしたい。近くて遠い8勝の差。今季限りで退団するレジェンドが、後進に譲った試合を無駄にしないために。