【矢野阪神V逸の影と逆襲への光5】「自主性」「楽しむ」矢野虎改革2年目へ
矢野阪神は貯金1の3位で2019年シーズンを終えた。CSではファイナルSまで進出したが、宿敵巨人に敗れて日本シリーズ行きを逃した。今季の問題点や課題を整理し、来季への希望を含め検証する。
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金本前監督は16年からの3年間、選手を育てながら勝つ方針を採った。後任の矢野監督は前監督が築いた土台に、独自の方針をプラス。これまでにないアプローチで能力を開花させようとした。
一つ目は「自主性」。意味を取り違える脆(もろ)さをはらむが、プロ意識を信じ、選手の意思を尊重した。
「『どうありたいか』ということを考えたら、何をやるべきかが見えてくると思う。『こうなりたい』と思って練習に入ってくる選手は、結果が変わると思っているから」
春季キャンプは宿舎発のバスを3便に分け、選手に乗車時間を選択させた。練習メニューも任せた。まずは練習に取り組む意識を変えることに着手した。
シーズンでも自主性の尊重は継続された。今季は試合終了後には、次戦のスタメンが伝えられた。矢野監督からすれば、個々の役割に備え、準備をしてもらう配慮だった。
和田監督時代は主力以外は試合当日の練習を終えてから、金本監督時代は試合当日の先発発表だった。矢野監督の方針に、選手からは「準備できるし、試合に入りやすくなる」との声もあった。翌日は先発ではない選手が試合後に室内練習場で打ち込む姿も増えたという。
全員で投手の特徴や傾向を把握していた対戦相手のミーティングも、今年は個別で相手の攻め方の確認、対策を練るようになった。
「自主性」はさまざまな形で浸透しつつある。一方で就任1年目は3位だったが打撃、失策など明確な課題も浮き彫りとなった。今秋以降は自主性の下、個々の意識がより問われることになる。
もう一つの方針は「楽しむ」こと。失敗してうつむくよりも、前を向いてやり返す意気込みを重視した。選手、スタッフとは積極的に向き合い、キャンプ、シーズンで何度も食事の場を設けて意思疎通を図った。
近本の成績が低迷していた6月中旬には、自ら声を掛けた。「甲子園にあれだけのファンが来てくれるけど、今日しか来られない人がいる。その人に近本の足(盗塁)を見せられたら、その人にとっては忘れられない試合になるよ」。プロは数字や勝敗に追われがち。指揮官はそんな意識を変えようとした。
節目では映像などを交えた全体ミーティングを実施。球団関係者は「今年ほど監督がコーチだけじゃなくて、選手を集めたミーティングが多かった年はないんじゃないか」と振り返る。今では全力疾走が当たり前となり、自然にガッツポーズが出るようになった。
矢野監督は立場が変わっても着飾ることがなかった。リーグ優勝が消滅した頃だった。全体ミーティングで「俺が明るくやろうって言いながら、それが今、なかなかできなくて申し訳ない」と謝罪したという。歴代の監督とは一線を画す指揮官。方針をぶらさず、2年目も改革を進める。=おわり=