【コーチに聞く・藤本敦士内野守備走塁コーチ】「いびつな五角形の子が増えてきた」
阪神の藤本敦士内野守備走塁コーチ(42)が、チーム力の底上げに確かな手応えを明かした。今季12球団ワーストの102失策。最下位となった00年以来、19年ぶりの屈辱だった。秋季キャンプで重きを置いたのは、選手自らに考えさせた上での弱点克服。ただ量をこなすだけではなく、個々にある課題を徹底的に鍛え上げた。個性ある集団を作り上げ、常勝軍団を形成する。
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手のひらのマメが割け、そこから新たなマメができる。選手さながらのスイング量。痛々しい左手を見つめながら、藤本内野守備走塁コーチはうれしそうだった。「春、誰を連れて行くか。いい悩みを増やしてくれるよ」。チームの底上げを感じた20日間だった。
今季12球団ワーストの102失策。最下位となった00年以来、19年ぶりの屈辱だった。過去は変えることができない。だからこそ秋季キャンプ前には、各選手に「答え合わせ」を求めた。シーズンが終われば数字はリセットされる。だが、現実から逃げない姿に、今後の可能性を感じた。
「来年、またゼロから始まるっていう気持ちじゃないのが、一番よかった。もちろん切り替えは大事だけど、選手個々が悔しさを忘れていなかった」
キャンプ初日。全体練習が始まる前から、グラウンドは殺気立っていた。大山、木浪に小幡、熊谷、藤谷の5人が久慈、藤本両コーチのノックを受けていた。途中から矢野監督も見守る中、息つく間もなく1時間が過ぎた。自主性を重んじるチーム方針において、全て選手の志願だった。
20あった失策のうち、大山は送球ミスが9。グラブからボールを右手に握り替える一連の動作の中に改善点を見いだしたこの秋は、まず「捕ること」に重点を置いた。木浪は遊撃の位置から二遊間への打球に対する動きを反復した。1年間、戦った中で露呈した課題。自分に向き合った日々が来季につながる。
「ただやりましたではなく、納得するまでトコトンやった。それは投手も見ている。悠輔は4番でサード。誰もが認める選手にならないといけない」
雪辱に燃える男たちの中、アピールを続けた男たちもいる。「ノックを受けた量は、2人がトップ」と評したのは熊谷、藤谷だ。堅実な守備と走塁が武器の熊谷と、スケールの大きな打撃が魅力の藤谷。タイプが違う2人が必死に白球を追った。「人それぞれ生きる道が違う。どうやってこの世界で生きていくか」。藤本コーチも現役時代、必死だった。
「オレも1軍にしがみつきたくて、思いっ切りバットを短く持った。引っ張りを捨てて、逆方向に打つ意識だけにした。何かを犠牲にして、何かをつかまなければいけない」
4番がいれば、代打の切り札がいる。守備固めがいて、代走がいる。出場登録された29人、全員が戦力にならなければ、打倒・巨人は成し得ない。「力はないけど、足はあるとか、守れる。能力数値がいびつな五角形の子が増えてきた。小さいきれいな五角形じゃなく、2もあるけど、5はあるみたいな」。個性派軍団を築く一翼を担い、15年ぶりのリーグ優勝を後押しする。