【コーチに聞く・清水雅治ヘッドコーチ】軸が生まれたらチームは変わる
侍JAPANで外野守備走塁コーチも務める阪神・清水雅治ヘッドコーチ(55)は、プレミア12で世界一に輝いた代表を例に「ONE TEAM」の精神を強調した。結束を強めるために待ち望むのは、軸となる中心選手の台頭。トップレベルを肌で知る参謀は「素材はいる」と可能性を感じている。自主性を促してきた選手に求める主体性。限界突破が来季のカギを握る。
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シャンパンを全身に浴びながら、清水ヘッドコーチは思いを強くした。「この輪の中に阪神の選手がいてほしい。本当にそう思ったよ」。侍JAPANの外野守備走塁コーチとして、プレミア12で悲願の世界一に輝いた。阪神からの選出は0。ただ、最高峰の戦いには来季、目指す野球の方向性を再確認した。
「俺が中心になるんだと思ってくれたらね。軸が生まれたらチームは変わるんだよな」
今月11日の2次ラウンド・豪州戦。1点差で迎えた七回、代走の周東が二盗、三盗で2死三塁と好機を広げた。世界中から称賛された盗塁だが、実はこれは首脳陣が計算していたサインプレー。驚きは次にある。ここで打席の源田が、セーフティーバントを試みた。敵だけじゃなく、味方も仰天の同点劇となった。
「周東の盗塁は勝つための手段。そこまでは考えていた。だけど正直、源田のバントは頭になかった。失敗すれば愚策。それでも、何としても1点を取って、勝つんだという気持ちのプレーだった」
舞台こそ違うがこれは、矢野監督が求めてきた姿勢だった。積極性の原点。前向きな失敗は成功につながる。三塁コーチを任された清水ヘッドは、代表でも選手たちに伝えた。「限界を自分で決めないでほしいと。これで回すの?と思った時点で遅れる。“清水さんは回す”と思ってきてくれと」。虎の指揮官が理想とする超積極野球は世界一に通じた。
シーズンを振り返れば69勝68敗、6分けで3位。首位巨人は77勝でトップに立った。つまり8勝、6ゲームの差をどう埋めるかが、来季のカギを握る。「例えばローテ投手が1人、1勝を上積みすれば6勝。2勝すれば12勝になる。誰かじゃなく俺がやる。チームとしてのつながりが欲しい」。自主性の先にある主体性が、推進力のカギを握ると信じる。
加えて代表では一流選手たちが、「個」ではなく「全」で戦った。右足薬指の骨折で出場辞退も、歓喜の輪に加わった秋山。決勝でスタメンを外れながら、ベンチからナインを鼓舞した松田。一流選手の献身的な姿は結束を高めた。「阪神を勝たせたい。そういう気持ちは何倍もの力になる」。フォア・ザ・チーム。原点でもある精神の重要性を、大舞台で痛感する毎日だった。
「よく、外国人選手の補強を言われるけど、そこに頼ったらダメ。頼らない選手が出てきてほしい。素材でいえば、いっぱいいるからね」。見た、聞いたトップ選手の姿勢を、チーム内に還元していく。世界一と日本一を狙う2020年。ニューリーダーの台頭を後押しし、世界とセ界のトップを目指していく。