30億円攻防戦のスタート 阪神の第8代オーナー宮崎恒彰氏「新規参入と言われ…」
2006年から2年間、阪神の第8代オーナーを務めた宮崎恒彰氏(77)が、デイリースポーツ紙面で激動の日々を振り返ります。02年に取締役としてタイガースに入団。黄金時代の構築に尽力し、村上ファンド問題、30億円問題など、猛虎の危機に立ち会ってきた。
◇ ◇
阪神は正式に阪急と経営統合され、阪急阪神ホールディングス(HD)の立ち上げは2006年10月1日と定められた。合併協議の最中、「宝塚は阪急。タイガースは阪神が持つようにしましょう」。両社のシンボルとも言えるブランド事業はHDの傘下企業ではなく、それぞれ阪急電鉄、阪神電鉄の子会社として存続することが決まった。
宮崎オーナーは就任直後の同年7月5日、オーナー会議へと出向く。タイガースは従来通り、阪神電鉄の100%子会社として活動することを説明するためだった。
会議前には名古屋に立ち寄り、議長の中日・白井文吾オーナーに経緯を説明。東上後は根来泰周コミッショナーと会談し、理解を求めた。しかし会議で「思わぬ突き上げを食らってしまったんですわ」と宮崎氏は述懐する。
野球協約には球団の保有者が変更となる場合、25億円の預かり保証金、4億円の野球振興費、1億円の加入手数料が求められると記されている。計30億円。親会社が阪急阪神HDとなっても経営母体は阪神電鉄であり、支払いは不要-。そう宮崎氏は踏んでいた。だが歴戦のビジネスマンが集うオーナー会議は修羅場と化した。
「いきなりタイガースは新規参入と言われてな。あれこれ話しているうちに、他球団のオーナーさんが『タイガースが新規参入でないならウチも違います。自分らが払った30億円を返してほしい』と言ってきたんや」
いったい何を言っとるんや-。タイガースはプロ野球創世記からリーグを支えてきた自負があった。広島の松田元オーナーも伝統の重みを訴え、会議でバックアップしてくれた。一方、プロ野球界は04年の再編問題を経て、親会社の顔ぶれが変わった。新規参入球団らは、野球協約にのっとってルールは遵守すべしと主張した。
宮崎氏「タイガースはチーム名も役員も変わっていないやないですか」
他球団オーナー「チーム名も選手も変わっていない球団は他にもありますよ」
宮崎氏「そんなん詭弁(きべん)やないか」
堂々巡りに会場の空気は一気にヒートアップした。
「みんなディベートがうまいから、とにかく言い負かされたらあかんと思って。すると熱くなってどんどん関西弁になるわけや。こっちは田舎者。それやったら関西弁で絶対に負けんようにしたる」
そんなかんかんがくがくのやり取りが15分にも及んだころ、議長の白井オーナーが一喝する。
「ええかげんにしなさい!!」
その場は収まり、多数決に移った。結果は3対9。阪神タイガースは「新規参入球団と見なす」という議決が下った。予想だにしなかった逆風だった。
「その3球団はウチと広島の松田さんと西武さん。あとはみんな30億円払いなさいとなったんですわ」
宮崎氏は会見に出席する予定だったが、拒否した。30億円は当時、阪神電車の新車両で約30両分。球団にとっても本社にとっても大ダメージとなる出費に「どないしたもんやろ…」。新総帥は控え室でうつむいた。過去に覆った例がほとんどなかったオーナー会議の議決が、両肩に重くのしかかった。
◆宮崎 恒彰(みやざき・つねあき)1943年2月9日生まれ、77歳。兵庫県出身。神戸大学経営学部卒業後、65年に阪神電鉄入社。88年、関連企業の山陽自動車運送に出向後、96年本社取締役、00年常務、社長室副室長。04年代表取締役専務となり、06年6月から08年6月まで阪神タイガースのオーナーを務めた。
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