【虎軍奮闘・コロナに負けるな】葛城育郎さん 経営の鶏料理店、弁当販売に活路
新型コロナウイルスが依然として世界中で猛威を振るう。そんな苦境下に立たされながら、必死に生きる元阪神選手らを「虎軍奮闘」と題してリポートする。初回はオリックス、阪神で活躍し、現在は兵庫・西宮市内で鶏料理専門店「酒美鶏 葛城」を経営する葛城育郎さん(42)。弁当販売も始めながら、シーズンの開幕を心待ちにする。
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日本中の飲食業界が今、未曽有の危機に直面している。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は7日に緊急事態宣言を発令した。外出の自粛が呼び掛けられ、各自治体が飲食店に時短営業を要請した。兵庫・西宮市内で「酒美鶏 葛城」を営む葛城さんも、突然、苦境に立たされた一人だ。
「要請に従って店は午後8時までの営業。大体、お客さんは1日に2組か、3組。それでも来ていただけるだけで、本当にありがたいことですけどね」
窓を開け放した状態でカウンターは閉鎖。日々の消毒作業も欠かさず、徹底した管理下で営業を続ける。連夜、満席状態だった人気店。大幅な売り上げ減だが、社員やアルバイト店員を休ませ、葛城さん一人で店を開く現状を「苦渋の決断」と明かす。わずかな休業補償を受けて店を閉める選択肢もあった中での、経営者としての判断だ。
「家族がいて社員もいる。みんな生活がある。店は在宅ワークにできないから。赤字覚悟で続けるしかない」。守らなければいけない人がいる、店がある。現役時代の勝負強さを見せるように、「今は動く時」と攻めに打って出た。弁当販売の開始。緊急事態宣言の発令後すぐのことだ。
ただ、料理を作るプロでも、弁当を作るノウハウはない。「本当に手探り状態」と、本やネットを参考に試行錯誤。6種の弁当と単品数種のテークアウトを始めた。「原価もそうだし、2回目も頼んでくれるか。見た目や、量はこんなんでいいかとか。調査するわけにもいかないですから」。赤字覚悟の選択。人と人のつながりが薄れる現状で、救われたのも人の温かさだった。
「おいしかった、また来るねと言ってもらえる。SNSでもそう。本当にお客さんの一言が励みになるんですよ。今はね、営業が終わってレジを打つのが楽しみで。こんなに買ってもらったんだな、ありがたいなって」
1日平均して20食。多い時は60食の注文もあった。「弁当はどこでも買えるのに、その中でもウチに来てくれた。本当に奇跡のようなことだと。絶対に店をつぶすわけにはいかない」。苦境下でも、感謝を再確認する日々に少しだけ幸せも感じる。落ち着いたら、また店に行くね。そんな声が今の支えだ。
現役時代の登場曲はアンダーグラフの「9」。何度倒れても、何度転んでも、いつだって前を向いてきた。「野球もそうですけど、お店もそうなんですよね。先が見えないし、答えがない。だから一日、一日、ガムシャラに、地道にやっていくしかない」。甲子園球場のお立ち台で、「ウォォォ!」-と叫んだあの日のように、明るい未来を信じて闘う。