【名勝負列伝】阪神の新時代告げた1勝 11年連続“悔幕”にピリオド
阪神タイガースの球団史を彩る名勝負を当時の紙面と共に振り返る。今回は星野監督の就任1年目、2002年3月30日・巨人との開幕戦(東京ドーム)を取り上げる。当時は空前の“星野フィーバー”。先発井川の快投と桧山、アリアスの一発攻勢。闘将の執念で12年ぶりの開幕白星をもぎ取った。翌2003年のリーグ優勝につながる、大きな1勝となった。
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歴史的1勝が新たな時代の幕開けを予感させた。開幕戦勝利は実に12年ぶり。翌日のデイリースポーツ1面は「星野が勝った!!」。写真では星野監督が涙をこらえるような笑顔で、井川を抱きしめていた。
星野監督「意識しとった。(過去11年は)オレじゃないと開き直っていただけなんだ」
試合後は興奮気味に声を上ずらせて本音を吐き出したという。監督生活12年目。数々の修羅場をくぐり抜けてきた指揮官にとっても格別の1勝だった。
星野監督「最後まで緊張しとった。井川よりオレの方がプレッシャーを感じとったよ」
開幕投手は「将来の阪神を背負う投手」と評した井川に託した。その左腕は巨人のエース上原と投げ合い、9回6安打1失点の完投勝利。試合後は「普通に投げられれば何とかなると思ってました」とコメント。22歳の開幕戦白星は70年の江夏に次いで球団史上2番目の若さ。ウイニングボールは星野監督へプレゼントした。
打線は一発攻勢で主導権を握った。二回、5番桧山が右翼席へ先制ソロを運ぶと、四回は4番アリアスがバックスクリーン左へ2ランを突き刺した。桧山は「初球を見逃して、不思議と落ち着くことができた。詰まったけどよく飛んでくれました」。オリックスから新加入したアリアスも「チームの開幕戦白星に貢献できて良かったよ。不名誉な開幕の連敗記録をストップできたからね」と喜んだ。
新監督の初陣、しかも巨人戦とあって紙面も大展開だ。1面・星野監督、2面・桧山、アリアス、星野監督の「熱血語録」、3面・井川と続き、4面は当日の1日を追う猛虎ドキュメント、さらに星野監督のドキュメントまで、注目度の高さがうかがえる。
極め付きは「やっぱり出た 道頓堀ダイブ」。当時の“星野フィーバー”の熱狂ぶりはすさまじかった。5面のトップはオープン戦から阪神に連敗を喫していた巨人の記事。「原 星野に勝てない」-。虎党にはたまらない構成だ。
まだまだ盛りだくさんだ。社会面では東京ドームを訪れた石原都知事が登場。「今のプロ野球は面白くない。阪神から日本のプロ野球を変えてくれ」と星野監督へ熱いエールを送っている。終面は2軍情報。星野監督から「巨人・松井に匹敵する力を持っている」と称された高卒ルーキー桜井が初打席初本塁打の衝撃デビューだ。
1面に戻ると、この日の試合を「ハートでつかんだ勝利。しかし頭はさえ渡っていた。9人で戦い終えた。ベストオーダーを組んだ手腕」と采配にも触れている。阪神は開幕7連勝のロケットスタート。しかし夏場の失速で4位に沈むと、星野監督はオフに大胆な血の入れ替えを断行。戦力外、トレード、引退で24人の選手が退団し、新たに金本、伊良部、下柳、野口らが加入した。2003年、日本中が“猛虎フィーバー”に沸く中、18年ぶりの悲願成就。星野監督は甲子園で宙を舞った。