制球難を“ソコ”から直す 虎戦士の活躍を支えるインソール
道具に強いこだわりを見せるプロ野球選手。今回はその中でも靴の中敷き、「インソール」に焦点を当てた。スポーツブランド・リルワンスターのインソールは阪神の選手も多く使用している。同社の大野友寿さんと理学療法士で同社の顧問を務める菊池貴之さんはそのインソールの開発に携わる。2人への取材から、インソールの奥深さ、同社の理念、選手の道具に対するこだわりが見えた。
想像してほしい。片足だけ靴を履き、もう片足は靴を履かない。ほとんどの人は気持ちが悪く、歩けないだろう。体というのはとても敏感だが、これを繰り返すと体は順応していく。気づかぬうちに、癖やゆがみが生じるからだ。
野球選手は特に癖や体のゆがみが出やすい。それは回転する方向、捻転する方向が同じということが多いから。例えば、右投げ右打ちだと、打つ時は体を左に回転。投げる時も左に捻転する。それをトレーニングなどで整え、アスリートは体作りを行っている。
ただ、癖があるままトレーニングを行っても、間違った体の使い方になる。そこでスポーツブランド・リルワンスターの大野友寿さんは、インソールを使って正しい体の動きに誘導しようと考えた。
その考えに賛同し、協力しているのが同社の顧問で理学療法士の菊池貴之さん。選手の投球フォームなどを動画で確認し、癖や体のゆがみを見つける。理学療法士である菊池さんが開発に携わることで、より選手のニーズに合ったインソールを作ることができる。
阪神では大山や梅野、守屋らがインソールを使用。さらに昨季の終盤から片足立ちのバランスを強化するため、及川も使い始めた。菊池さんは及川の特徴について「体重をかけていくと膝の位置がぶれる。足の裏が土踏まずも含めてぺちゃっとつぶれてしまっているので、体重をかけた時に、内側へ入ってしまうんです」と話す。
これにより投球でも下半身の粘りが弱く、制球が定まりにくくなるのだ。及川の左足は普通に立っても小指側へ極端に開いてしまう。そこで1ミリ単位でインソールを調整し、矯正を行っている。
「インソールはただの靴の中敷きなんです」と大野さん。それでも「それを使うことでその人がどうなっていくかっていう責任がある。その選手が活躍すること、思った通りの動きをすること、悔いなく動けることが大切なんです」と話す。
この思いが同社の理念。菊池さんも「インソールは一つの手段。10回やったら10回同じ動きができるように、それをやりやすくさせてあげるための一つの手段なんです」と語る。
足元の動きは全体の動きに直結する。それだけに、インソールは大きな役割を担う。「インソールの道具としての価値が上がるようにしていきたい」。近い将来、グラブ、バットと並びインソールが野球人の“必需品”になるかもしれない。
阪神の及川雅貴投手(19)は、昨季の終盤に初めてインソールを変えた。野球道具へのこだわりはこれまでグラブの重さだけ。ただ、昨季途中に軽い腰痛を発症し、体の動きを見つめ直した。
「足のゆがみには気づいていました。あおむけで寝ている時も、力を抜いたら左だけ小指側に倒れていくので。でも体の構造だと思っていたので、そんなに気にしたことはなかったですね」
11月中旬に完成したインソールを使用。同20日のフェニックスリーグ・西武戦が着用後、初登板だった。そこで自己最長イニングを更新する7回を投げ1失点。「履き始めた最初の試合でああいう結果が出たので、効果は出ていると思います」。今では歩行時のバランスの良さも実感している。
「軸足で立った時に、バランスが取りやすくなった。しっかりケツに力が入ってたりとか、新しい発見がありました」と効果はてきめん。体の動きを誘導するという、大野さんの理念と完全に合致している。
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