阪神・佐藤輝へ父から初めての手紙…8年前に手渡せなかった我が子への思い
満開の桜が広がる東京で迎えた開幕戦。阪神ドラフト1位・佐藤輝明内野手(22)=近大=の父・博信さん(53)が26日、8年前に手渡すことができなかった秘密の手紙をデイリースポーツに寄せた。夢を持つことの大切さや愛息に対する親心などを赤裸々に書き記し、最後は最高峰の舞台に挑戦する背番号8へ熱いエールを送った。
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輝明様
いよいよ開幕戦ですね!いつも言っているように己のやるべきことに最大限注力してください!
あらたまって手紙など書いたことはないけれど、幼い頃からの夢だったプロ野球選手としての大きな第一歩を踏み出す君に伝えておきたいことがあります。
実は君に書く手紙はこれが初めてではありません。中三の総体が終わり、さあ、これから高校受験に力を注がなければならないという時、なぜか勉強に身が入らず、目標さえも見失いかけていた君に、何とか親としての気持ちをわかってもらいたくて書いた手紙です。結局出せずじまいだったけれど、今なら素直に気持ちを伝えられるかなと思います。読んでくれると嬉しいです。
以下はその時出せなかった手紙です。
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前略
君に手紙なんてはじめてのことだから、びっくりかもしれませんね。先日、約束を守らなかった時、本当に受験をやめさせるつもりでした。昨日もテストを持ち帰らなかったので「やめろ!」と怒鳴りました。
君も言いたいことが色々あるでしょうが、まず父さんの考えを聞いて欲しい。そのうえで君の考えを聞かせてください。それがこの手紙の意図です。
君が生まれてからのことをたどりながら書くので、かなり長くなるかもしれないが最後まで読んでほしい。
1999年、平成11年3月13日 君が生まれた。嬉しくてもう死んでもいいと思ったぐらいだ。それを母さんに言ったら「これから育てなアカんのになに言ってんの」と返された。
生まれてから2週間で名前を決めて、出生届を役所に出さないといけないのに、めっちゃいい名前をつけてやろうと思うあまり、迷いに迷って届け出がギリギリになり、母さんをハラハラさせてしまった。
君が小さい頃は弟たちもそうだが、とにかく丈夫で元気に育ってくれればそれでいいと思っていた。スクスク育つ君を見ているだけで幸せだった。
2、3才になってくると自我もめばえてきて、いろいろと悪さをするようになる。今の(三男の)悠みたいにね。
父さんは君に対して小さい頃から厳しかったと思う。可愛いと思う反面、しっかりとした人間に育てなければという思いが強かった。
躾(しつけ)のつもりでも、時に感情的になってしまい君を叩いたり、無視してしまったことがある。今でも、その時のことを思うと「やり過ぎたな」「他にやり方があったな」と心が痛みます。
それでも君はグレることも反抗することもなく、幼稚園、小学校時代を過ごし、野球と出会ったことで生まれて初めて自信のようなものを感じたのではないだろうか。
父さんは直感的に「この子は野球だな」と感じました。人には持って生まれた才能、センスがあります。君は勉強もそこそこできる方だが、野球をしている時が一番しっくりくるし、輝いていると思います。
君が5、6年生の時、ホームランを打つたび父さんも母さんもどんなに嬉しかったか。口では「ホームランを打つと回転ずしなので、お金がかかって困る」なんて言っていたけれど、本心は「なんぼでも食わしたるから打てー!」でした。
その頃から父さんは、輝がプロ野球選手になれたらいいなあという夢を描くようになった。君も同じ気持だったと思う。
そんなやさき、全日本学童の県大会の直前、君の肩をアクシデントが襲いました。今思えば、この時すでに肘も壊れかけていたのだろう。ここで、肩も肘もしっかり検査してもらうべきでした。父さんは君の活躍に有頂天になって「輝なら大丈夫、俺の息子だから強いはずだ」と過信してしまった。
君はあの時、投げられる状態ではなかった。親として絶対に止めるべきだった…。
そんな君に投げさせておいて、試合後ぐだぐだと説教しましたね。あんな負け方で一番つらかったのは君自身のはずなのに…本当にすまなかった。
その後野球肘が発覚し、そこから時間が止まってしまったような感じでした。
一年以上が過ぎ、中学で肘が治ってからは、野球ができる君を見ているだけで満足でしたが、やはり治ってくると期待感も高まりました。
父さんの好きな言葉に
「夢を捨ててはいけない、夢がなくともこの世にとどまることはできる。しかし、そんな君は、もう生きることをやめてしまったのだ」
という詩があります。
「生きる」ということは夢に向かって力を注ぐことであるという意味だと思います。
毎日おいしいものが食べられて幸せ?
ゲームができたりテレビが見られて最高?
欲しいものが買えて満足?
たしかにそうでしょう。
しかし、たった一度の人生、本当にそれだけで心からの満足感や達成感、幸福が得られるだろうか?
今の君は夢をもって生きていますか?
君の夢はなんですか?
君は「夢」という絵の下書きを描き始めたところで、ほんの少しつまずきました。
この絵はまだ輪郭も描けていないし、もちろん色もぬっていません。この絵が完成するかどうかもわからないし、どんな絵になるかなんて君自身にも、誰にもわからない。
ひとつ言えるのは、途中で描くことを諦めてしまえば、絵は永遠に完成しないし、適当に描けば適当な絵にしかならないということです。
自分を信じて行動を惜しまなかった人間にだけ、夢という絵を完成させるチャンスが巡ってくるのです!
父さんは輝が生きているだけで幸せです。
それは母さんも同じ気持ちだと思う。しかし同時に、夢に向かって最大限チャレンジして欲しい。
それがどんな夢でもかまわない。
その夢が叶わなくてもいい。
本当に心の底から君自身がやりたいこと、成りたいものに向かって突き進んでもらいたいのです。
矛盾するようだが、それが父さんの偽らざる願いです。
草々
平成25年7月9日 輝明へ 父より
(8年後、プロ野球選手をかなえた息子へ-)
輝よ!
プロ野球選手という夢の下書きは描けた!
後は丹念に、時に大胆に
明るく輝く色たちをぬりまくれ!!