阪神・佐藤輝の長打の秘けつとは? 鹿屋体育大・前田明教授が打撃フォーム解析
阪神のドラフト1位・佐藤輝明内野手(22)=近大=は、なぜあんなにもすごい打球を飛ばせるのか-。ここまで12球団の新人で最多となる10本塁打をマークするスラッガーの秘密に多角的な視点から迫った。スポーツパフォーマンス研究とバイオメカニクスの専門家である鹿屋体育大・前田明教授(56)が打撃フォームを解析し、父・博信さんやチームメートの証言をまとめた。
◇ ◇
佐藤輝明選手の打撃フォームを2種類に分けて解説させていただきます。(1)として体格やパワーを踏まえた打撃フォームの動きについて。(2)のポイントとして挙げるのは目線と動体視力です。
◆【1】打撃フォーム
打撃フォームの動作を見ていくと、インパクトの瞬間もそうですし、とてもきれいです。基本的にしっかりと体重が後ろに残っている。この一連の動きがなぜできるのかというと、右足の強さです。もちろん、後ろの左足でも蹴っていくんですけど、前の足でしっかり止めている。基本、振る力というのは、地面を蹴ることで下から上に力が上がっていきます。そのため、地面をしっかりと蹴らない選手はエネルギーがあまり動かない。左足で蹴った力を右足で止められている。右足の力が相当強いと思います。
打っているときも体のブレがありません。ソフトバンクの柳田選手とかもそうです。あれだけ力強いスイングをしても、前側の足はビシッと止まっている。踏む力というのは、斜めに跳ね返ってきます。これまでの研究で、踏む力が強ければ強いほどスイングも速くなってくるということが分かっています。そういうのを考えても、踏み込み足が相当強いなと思いました。
バッティングはインパクトの瞬間しか、自分のエネルギーをボールに伝えることができません。ほとんどの選手は、前の足が着地したときに一瞬は膝が曲がるんですが、佐藤選手はすぐにはね返している。素早くはね返すことで、体の回転が速くなり、打球の強さにもつながっていると思います。
そして、ダイナミックな打撃フォームの割にばらつきが少ない。柳田選手もそうだと思うんですけど、すごく大きなパワーを発揮しながらスイングしている。それでいてスイングのブレが少ない。プロ野球選手にはパワーだけある人はたくさんいますが、バランスが安定している人は少ない。佐藤選手はバランスも安定しているので、持っている力をボールに伝えることができています。
◆【2】目線と動体視力
ここから2つ目のポイントになりますが、顔が動くかどうかになります。上下は動いているんですけど、前後はあまり動いていません。足を上げた写真の3枚目から4枚目を見ても安定している。右足の前の足が少しでも揺れると、目線がズレてしまう。高いパワーを出し続けながら、フォームのバランスがいい。
連続写真を1枚目から見ていくと、グリップの位置が高めにあります。ここは本人の感覚になりますが、リラックス、ボールの見やすさとかもあるかもしれないです。
足が上がっても手の位置はまだ高い。そしてだいぶ足が大きく上がると、ヘルメットの位置まで降りてくる。足がついても手はトップの位置付近にあります。そして、打ちにいくところでグッと下がる。顔の上下動は少し気になりますが、一瞬のうちに高いところから一気に振りにいくことで、重力加速度を生かせています。低いところからだと自分の力だけになりますが、高いところから下ろすというのは、重力加速もかけることができるので、体幹の捻転速度やスイングスピードを上げることができて効率がいいですね。
インパクトの瞬間の写真を見ても顔が残っているし、目でボールを見られている。実際にはインパクトの瞬間はみんな見ていないのですが、顔が残っている感じがする。重要なポイントは、ミートポイントに当たるかどうかですから。大柄な選手がダイナミックなスイングをするとミートポイントに当たりにくくなる。それができるのは、顔がブレずにボールを見られている。ボールが見られる要因として絶対に動体視力がいいんだろうと思います。“もらった”と思わないと、そこに目線はいかない。柳田選手もインパクトの瞬間を見られている。
顔の位置ですが、前後の動きはないんですけど、上下は少し動いている。1枚目から3枚目も変わらないですね。4枚目も変わらない。5枚目で後ろの観客席で測ると2席分ぐらいは下がっている。6枚目にいくとまたさらに下がっている。ここで見えたと思っていないと、打てない。前後がほとんど動いていないので、それが彼の特徴です。
ここまで、本塁打を放った打席は全て完璧な打撃フォームだけでなく、体勢を崩されても本塁打を放つことがありました。コース、球種の判断は0・4秒から0・3秒でやらないといけない。それに対応できるか。かつホームランにできるか。体勢を崩されてもホームランを打てるというのは、すぐに立て直す右足の筋力がある。もちろん、それは目でボールが見えていて、反応できているというのがあるからこその結果だと思う。
◆【3】今後の佐藤輝
トラックマンのデータを見てもすごい。打球速度170キロ以上を記録している。ホームランになった値だから高いのは分かるが、170キロはあまりいない。これはパワーもそうですが、ジャストミートポイントに当たらないと飛ばないですし、打球速度も出ない。脚筋力が相当あるということと、動体視力がいいからこその数値です。
今後は確率を高めるためにもプロのボールに慣れていかないといけません。そのためには、バーチャルでもいいんですが、とにかく投手が投げるボールを見るだけでタイミングは合ってくると思う。この状態のまま普通にいけば30本塁打はいけるんじゃないでしょうか。もちろん相手投手も研究してくると思いますが、ケガをしないことと、ボールをたくさん積極的に見てというところが奏功すれば、40本塁打も可能だと思います。
◆前田 明(まえだ・あきら)1965年5月19日生まれ、56歳。宮崎県出身。1988年に鹿屋体育大学を卒業。バイオメカニクス研究が専門で06年に同大体育学部の教授に。日本スポーツパフォーマンス学会の理事長。研究分野は野球の動作に加え、着地衝撃、動体視力、トレーニングなど。過去にソフトバンク・和田や甲斐の打撃フォームなどを解析。鹿屋体育大野球部の部長にも就く。