阪神のドラフトが変わった2015年 金本氏の「欠点、大いに結構」から始まった好循環
今年、阪神は見事なまでに世代交代を果たしたと言える。レギュラーに生え抜きの20代野手が多数在籍し、FAなどで獲得した選手が主力を占めた2010年代前半とは明らかに様変わりした。
2009年から阪神のドラフトをトラ番、そしてアマチュア担当として追ってきた。転機になったと考えられるのが2015年度だ。会議直前に就任が決まった金本新監督の言葉。それが虎のドラフト戦略を根本から覆し、新たな風を吹き込んだと記憶している。
「入ってから教育すればいいんだから素材のいいのを取りましょうと(伝えた)。無難な選手のドラフトは脱却しないと。それは僕も言ってるので。欠点、大いに結構。欠点は(チームに)入れて直すんだから。それは昨日も、何回も口酸っぱく言いました。コントロールが悪いとか変化球が少ないとか、変化球を打てないとかインコース打てないとか、今はまったく無視をして」
この年、5位で指名した青柳がその最たる例だったかもしれない。帝京大時代は制球力、フィールディングが不安視され、評価を落としていた。一方、右横手から繰り出されるツーシーム系のボールの強さはダイヤの原石だった。
「欠点、大いに結構」-。
弱点ではなく特筆すべきポイントに焦点を当て、数球団しか調査書を出していなかった右腕を指名。1年目から4勝をマークし、防御率は3・29。ドラフト5位指名としては十分な成績を残したことで、金本監督の考えはチーム全体に浸透していった。
翌16年度は1位に大山を指名し、ドラフト会場にいたファンを驚かせた。さらに5位で大卒・社会人出身の糸原を指名。この当時まで阪神は大卒・社会人を経た野手の指名は球団フロントや電鉄本社サイドの「伸びしろが少ない」という考えから敬遠されがちだった。
それでも金本監督は「スイングの強さがある」と指名した理由を説明。その言葉通り、糸原は1年目から結果を残し、以降は主将を任されるなど中心選手へと成長した。魅力がある選手であれば、経歴や年齢は問わないという考え方。そう信じて獲得した選手を試合で使い、選手も結果を残す。その好循環は、金本監督の退任後もチームに根付いていった。
2018年度に外れ1位で指名した近本、3位で指名した木浪、4位の斎藤はいずれも大卒社会人出身の選手。翌19年度は1位~5位まで一気に高校生を指名するなど大胆なかじ取りを見せ、2年目となった今季、西純と及川がプロ初勝利を挙げた。20年度は佐藤輝に加え、2位の伊藤将、6位・中野が1軍に欠かせない存在になっていることに加え、5位・村上、8位・石井大も1軍のマウンドを踏んでいる。
実は2010年代前半にも「ドラフトはチームの骨格」と称し、フロントが改革に乗り出そうと機運が高まった時期があった。しかしその反面、「失敗したくない」という不安がつきまとっていた。行く先にあったのは「ある程度守れてある程度打てる野手」「バランスの取れたピッチャー」というふうな“理想形”に落ち着いていったように思う。
そんな中、強いリーダーが現れ、これまでの概念を一気に吹き飛ばした。新たな風を吹き込んだタイミングからちょうど6年、チームは大きく変わった。今年のドラフト会議は10月11日に開催される。果たしてどんな選手が指名されるか、そしてその頃のチームの順位は?興味が尽きない秋になるかもしれない。(デイリースポーツ・重松健三)