ドラフト4位・前川右京【2】

 10月のドラフト会議で阪神から指名を受けた8選手(1~7位、育成1位)の連載。4人目はドラフト4位・前川右京(18)=智弁学園。

  ◇  ◇

 右京は津ボーイズの松本直也監督をとにかく慕った。家に遊びに行けば、監督の奥さんがしびれを切らし「帰りなさい」と言うまで長居。ビリヤードをしたり、お下がりの洋服をもらったり「お父さんというか、お兄ちゃんですね」と松本監督は笑う。

 ただ、グラウンドでは目の色が変わった。「キャッチボールでも、一球一球に意味を持った捕球、送球を考えてできていた。無駄なことを一切しなかったですね。ランニング一つにしても、全て練習内容の意味をわかって行動していた」。練習から全く手を抜かず、怒る必要がなかったという。

 そんな右京が中学時代に一度だけ涙を流した日がある。中学3年の8月末、岐阜県のチームに勝てば全国大会に出場できるという決定戦。この試合にエースが投球制限で投げることができない状況となり、松本監督は「右京、行けるか?」と聞いた。「いや…」。右京は先発を“拒否”した。

 そして試合は敗戦。試合後、右京が謝罪に来たが、松本監督は「お前は一切悪くない」とかばった。

 「人前で赤ちゃんみたいに、呼吸困難を起こすぐらい泣いていた。本人は怒ってもらった方が楽やったんですよ。お前のせいじゃないと言われて、余計に悲しくなって、大泣きしてましたね」

 松本監督は怒らなかった。しかし、すでに智弁学園への進学が決まっていた右京に、あえて厳しい言葉をぶつけた。

 「(そんな気持ちならば)強豪校に行く選手じゃない。自分がチームを背負っていくって気持ちがないと、智弁ではしんどいかもしれんぞ。野球がうまい子の集まりや。そこに行って、みんなの前へ出る人間にならないと、ただうまいだけの選手で終わるぞ」

 この言葉が、右京を変えた。この頃から食事面でも努力を重ね、心技体の全てで成長。智弁学園では1年春からベンチ入りし、2021年夏の甲子園大会は準優勝を果たした。決勝では敗れ、涙を流したが「みんなを鼓舞してたでしょ」と松本監督。右京も「自分たちの実力を出し切ったので、負けて後悔のない試合だった」という思いからナインを励まそうとしたのだろう。

 高校時代に甲子園を沸かせたスラッガーがタテジマに袖を通す。「浜風に負けないぐらいバットを振って、力をつけて、浜風が吹いても打球を飛ばせるように準備したいです」。中学生の時点で練習の意図をくみ取り、一切の妥協をしなかった右京が、プロの世界でも羽ばたいてみせる。

 ◆前川 右京(まえがわ・うきょう)2003年5月18日生まれ、18歳。三重県出身。176センチ、88キロ。左投げ左打ち。外野手。小1で野球を始め、一身田中では「津ボーイズ」に所属。智弁学園では1年夏から4番を務める。2021年度ドラフトで阪神から4位指名を受ける。

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