阪神ドラ4前川右京 1軍デビューいきなりマルチ 80年以降で高卒新人初
「オープン戦、阪神2-2巨人」(13日、甲子園球場)
阪神のドラフト4位・前川右京外野手(18)=智弁学園=が鮮烈な1軍デビューを飾った。「7番・左翼」で先発し、4打数2安打と躍動。1980年以降では高卒新人がオープン戦初出場で安打を放ったのは球団初。非凡な才能の片りんを見せた18歳に、矢野監督も15日からの博多遠征への帯同を決めた。怖い物知らずの「フルスイング」を武器に開幕1軍を目指す。
前川の白と赤のネームタオルが、スタンドで揺れた。2打席凡退で迎えた七回1死一塁の第3打席。2球で追い込まれた直後の外角低めのフォークに執念で食らいつき、右前へ運んだ。白球が地面に落ちると同時に湧き起こる虎党の大歓声。「球場の歓声がすごくて、うれしかったです」。聖地の盛り上がりを初めて体感し、緊張で固まった表情が塁上で少し緩んだ。
直後の2死一、二塁では、小幡の左中間二塁打の間に一塁から一気に本塁生還を果たす激走。九回2死では変化球に泳ぎながらも中前に運び、マルチ安打をマークした。「やっぱり振っていかないと何も始まらない」と、4打席中3打席でストライクの球を全てフルスイング。持ち味を存分に発揮した。
昨年3月、前川は甲子園で泣いていた。高校3年春のセンバツの準々決勝・明豊戦。得点圏に走者を置いた場面で全4打席が回ってきたが無安打に終わり、チームは敗戦を喫した。「打撃に自信があったけど何もかも通用しなかった」とふがいなさに涙を流した。夏の甲子園でも決勝で敗退し、全国制覇の夢はかなわず。屈辱と悔しさしか残らなかった。
しかし、タテジマのユニホームに袖を通し、再び足を踏み入れた聖地で景色は一変した。1980年以降では球団初となる高卒新人のオープン戦1軍デビュー戦での安打。試合前に矢野監督から「エラーしても打てなくてもいいから思い切って行ってこい」と声をかけられ、言葉通り、がむしゃらに聖地を駆け回った。
試合後、矢野監督は「もっと見たい」と15日から始まるソフトバンク2連戦(ペイペイ)の遠征に帯同させることを明言。「たまたま打った感じではない。あいつの力はそういうレベルにある」と実力を認めたうえで追加招集を決めた。
前川自身も「やるからには(開幕)1軍を目指していますし、グラウンドに立った以上は自覚と覚悟を持ってやっていきたい」と高卒1年目の立場に甘んじる気はない。「年齢は関係ないと思うので、堂々とプレーしていけたらと思います」。18歳でも遠慮はしない。自慢のフルスイングで開幕メンバーに名を連ねてみせる。
◆前川 右京(まえがわ・うきょう)2003年5月18日生まれ、18歳。三重県出身。176センチ、88キロ。左投げ左打ち。外野手。背番号58。小1で野球を始める。智弁学園では1年夏から4番。高校通算37本塁打。21年度ドラフト4位入団。
◆阪神・主な高卒新人野手のオープン戦安打 1973年度ドラフト6位の掛布雅之は74年3月18日・南海戦(甲子園)で代打で初安打初打点。同21日・太平洋戦は「8番・遊撃」で初先発出場し4打数2安打。同24日・近鉄戦は「7番・三塁」で4打数4安打。オープン戦6試合12打数8安打の好成績で開幕1軍をつかんだ。
近年では20年3月7日・日本ハム戦で井上広大と遠藤成が途中出場でデビューし、ともに無安打。井上は翌8日・巨人戦で左越え適時二塁打を放った。野原将志が07年2月25日・オリックス戦に「9番・三塁」でフル出場したが3打数無安打。