「阪神１－０ヤクルト」（８日、甲子園球場）

　祈るようにベンチで見ていた阪神・大竹の表情が一気に晴れた。新たな仲間たちも皆笑顔の現役ドラフト組、白星一番乗り。「逃げずに六回まで勝負できた」。攻めに徹した８４球だ。

　テーマは「真っすぐをしっかり投げること」。圧巻は四回１死での村上との勝負だ。同郷の後輩に内角攻めを展開。「そこに投げないと抑えられない」と、１－１から１４１キロ直球をズバッと投げ込み、バットは真っ二つに。二ゴロに抑えた。

　６回無失点。冷静な投球をできた要因に挙げたのは、前夜に見た、ダルビッシュがメンタル面を解説した動画だった。ネガティブな自分が頭に出てきた時、それを自分の声と思わず、第三者的な目で見られたらポジティブな自分がはねのけてくれるという発想だ。何度か「打たれそう」と頭によぎったそうだが、大投手の言葉を思い返し、弱い自分に打ち勝った。

　早大３年時、大竹は失意のどん底にいた。前年は東京六大学春季、秋季リーグ戦や全日本大学選手権で胴上げ投手に輝いたが、突如、野球人生初のスランプに陥り「本当に苦しかった」と振り返る。そんな時、忘れられない出来事が起こった。

　１６年４月に熊本地震が発生。地元での大災害で３００人近くの犠牲者を出し、友人の家は全壊するなど、被害の大きさにショックを受けた。東京で何不自由ない生活を送っていた大竹は、そこでハッと気がついた。

　「野球ができるのに俺は何をしている。野球で悩めているだけ、幸せじゃないか」

　落ち込んだ時、うまくいかない時は今でもあの頃を思い出す。「地震時と自分の調子が沈んだ時は同じタイミングでしたけど、その時に気づいて野球から逃げずに取り組み続けることができた」。逃げずに立ち向かった先に大観衆の甲子園のお立ち台という最高の景色が待っていた。

　大山、石井の隣で記念球を手に、大竹が頬を緩める。「現役ドラフトでホークスから入団した大竹です。これからチームの戦力になれるように頑張ります」。まず１勝。活躍の道がここから始まる。

　◆大竹　耕太郎（おおたけ・こうたろう）１９９５年６月２９日生まれ、２７歳。熊本県出身。１８４センチ、８７キロ。左投げ左打ち。投手。済々黌から早大を経て、１７年度育成ドラフト４位でソフトバンク入団。１８年７月に支配下登録。２２年オフの現役ドラフトで阪神移籍。