阪神・近本がMVP 「僕が一番、歓声を聞いていた」今シリーズ3度猛打ショー 打率・483
「SMBC日本シリーズ2023、オリックス・バファローズ1-7阪神タイガース」(5日、京セラドーム大阪)
日本一の輪に少し遅れて交じっていった。阪神・近本光司外野手は左翼でウイニングボールを収めたノイジーのカバーに回ったため、マウンドまで最も遠い場所にいた。「でも僕が一番、歓声を聞いていたと思います」。らしい表現で歓喜の瞬間を振り返った。
最終決戦の大一番で歴代最多タイ(史上24人目)、球団では1962年の吉田義男以来2人目となる1試合4安打。シリーズ通算14安打、打率・483と形容しようのない数字で、MVPに輝いた。
初回先頭で146キロ直球を中前に運んだ。第2戦で無安打に封じられた宮城から幸先よく快音を奏でた。3点リードの五回には1死一塁から再び中前打で好機を拡大した。
そして六回。2死二塁で小木田の初球を右前にはじき返した。第1戦、第4戦に続く3安打。歴代最多に並ぶ日本シリーズ3度目の猛打賞で球史に名を刻んだ。九回には一塁内野安打で締めた。
長く過酷な闘いだった。近本の個人トレーナーを務める仲林久善氏は近本の“変化”に気付いていた。広島とのCSファイナルS初戦が行われた10月18日。近本の自宅に招かれ、マッサージなどで全身のメンテナンスを行った際に「体のボリュームダウン」を感じたという。同4日にレギュラーシーズンを終え、公式戦から2週間遠ざかった。フェニックス・リーグへの移動などもあり、シーズン中は週1、2度課していたウエートトレーニングが不足し、「筋肉の張りが弱まっていた」(仲林氏)という。
CS初戦で適時二塁打を放った近本だが、快音は1度だけ。3試合で11打数1安打、打率・091に低迷した。だが、そのままでは終わらない。試合を重ねるごとに刺激を得た体は、着実に臨戦態勢を取り戻していった。
一方で心身の疲労は蓄積されていった。自身初の日本シリーズを経験し、かつてないほどに長いシーズンを送った。張り詰めた糸は限界に近かったのか。シリーズ開幕前には「他のことは考えたくない」と漏らすほど、野球に対する集中力を研ぎ澄ませてきた。
3月31日の開幕戦から219日。ようやく心と体を休めることができる。オフにはアロママッサージを受けたいと話しているという。仲林氏は「肉体の疲労よりも精神的に癒やされたいのでしょう」と近本を思いやった。
「選手それぞれ、いろんな思いを背負って戦ってきた。周りの人たちに応えられてうれしい」。自らに関わる人々に喜んでもらうために身を削ってきた。近本の偽らざる本音だったに違いない。