【とらものがたり・大竹耕太郎投手編(1)】現役ドラフト「覚悟できていた」
18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に貢献した虎戦士の野球人生に迫る新企画「とらものがたり」がスタート。現役ドラフトで加入し、12勝を挙げて大ブレークを果たした大竹耕太郎投手(28)を皮切りに村上頌樹投手(25)、木浪聖也内野手(29)が順次、登場します。大竹投手編の第1回は昨年12月、運命を変えた現役ドラフト当日のドラマに迫ります。
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2022年12月9日-。NPBで初めて現役ドラフトが開催された日だ。当事者となった大竹は、この移籍をきっかけに阪神で大ブレークする未来が広がることとなるが、開催日当日は知人を介して縁をつないでもらい、ヤクルト・石川と都内のイタリアンでランチをしていた。
食事の終盤、大竹の携帯に所属していたソフトバンクの球団関係者から連絡が入った。内容は察していた。
「今、ヤクルトの石川さんとご飯を食べていますので…」。初めて食事する大先輩に気を使わせるわけにはいかなかった。球団担当者もその状況を理解し、「それは石川投手に失礼にあたるから、もう一回かけ直す」と快く了承してくれた。
ランチの後に折り返すことが決まったが、実はこの時、大竹は気が気でなかった。内心は「正直、中身が分かっているから早く球団だけ教えてほしい」という気持ちでいっぱいに。「そこから全然、食べられなかった。味もしなかった」と率直な思いを明かす。
前々から現役ドラフトでリストに出されることは覚悟していた。
22年の秋季キャンプで支配下選手にもかかわらずメンバーから漏れた。一人だけ2軍施設の筑後で汗を流し、「そうだろうなと思って、ロッカーの整理もしていた」。幼い頃から大好きだったソフトバンクの戦力構想から外れてトレードになるか、現役ドラフトになるかの2択。セ・リーグの球団を予想していた。
ソフトバンク在籍時、3~5年目は結果を残すことができず腐りそうになった日もあった。ウエスタンで完投や完封しても昇格できなかった時期もあり、「なんのためにここで投げているのか…」。その現実に失望しそうになったこともある。
現役ドラフトの日、石川と食事をしたのは示し合わせたわけでもなくたまたまだ。心が折れそうな時期もあったが、決して闘志の火が消えていなかった大竹は、来年に生かすために投手として生きる術(すべ)を多く学んだ。調子の悪い時の考え方、相手の嫌がることを実行する大切さを教わった。
大先輩との貴重な時間を過ごした後、ソフトバンクの球団関係者に連絡。「阪神に決まった」と伝えられた。「現役ドラフトでの移籍は覚悟できていた。前向きに捉えて頑張ろう」とすぐに決意を固めた。ここから大竹の飛躍につながるさまざまな出会いが待ち受けていた。
◆大竹 耕太郎(おおたけ・こうたろう)1995年6月29日生まれ、28歳。熊本県出身。184センチ、87キロ。左投げ左打ち。投手。済々黌から早大を経て、17年度育成ドラフト4位でソフトバンク入団。18年7月に支配下登録。22年12月の現役ドラフトで阪神へ。23年はチームトップの12勝でリーグ優勝と日本一に貢献。