【とらものがたり・村上頌樹投手編(1)】野球人生変わった4・12 「めった打ちされて終わろう」→7回完全投球

 今季、大ブレークした村上
 先発で5点目を奪われる村上=2021年8月28日
2枚

 18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に貢献した阪神選手の野球人生に迫る新企画「とらものがたり」。大竹耕太郎投手に続く2人目は、プロ未勝利から今季のMVPに輝くまでの大ブレークを果たした村上頌樹投手(25)が登場する。第1回は脚光を浴びる以前の心境や、球界に衝撃を与えた「4・12」に臨むまでの思いに迫る。

  ◇  ◇

 小さな落胆の積み重ね。その一つ一つをはね返す作業が、大躍進の原動力となった。まだスポットライトを浴びる前の心境を、村上はこう振り返る。

 「やるべきことをやっていれば、結果はついてくると思って。感覚は良かったので、これを失わないようにと思っていました」

 今春キャンプ。球場まで約30分のバス車内で、スマホの画面とにらめっこする。ある“2文字”を探して-。

 「記事を見ても名前が出てなかったので『ああ、ダメなんかなあ』と。開幕ローテの記事を見たら、岡田監督も『6番手は大竹か桐敷か』みたいな感じで…。一つも『村上』の文字はなかったので」

 先発ローテ候補として迎えた1軍キャンプだが、立場は厳しかった。青柳、西勇、伊藤将の実績組に加え、成長著しい西純、才木。実質1枠しか残っていなかった開幕ローテの座を、先発転向した岩貞、大竹、桐敷らと争う形となった。

 手応えはつかんでいたが、自信は持てなかった。キャンプ終盤の実戦では、桐敷が1軍戦で登板する一方、同日の2軍戦での先発に回ることも。湯浅ら仲の良い選手が報道陣に囲まれるのを横目に、タクシーへ乗り込むことも多かった。

 それでも、心は折れなかった。先発一本から、ロングリリーフ枠も視野に。諦めたからではない。「去年は何もできない歯がゆさがあったので、今年はその思いをぶつけます。何が何でも食らいつく」。どんな形であれ、1軍にしがみつく決意。「今は評価が低いのは分かってるので、見返したい。めちゃくちゃ抑えて、取材断ります!!」と冗談めかして笑った日だってある。

 実際に、“その時”はやってきた。中継ぎとして自身初の開幕1軍入りを果たすと、開幕2戦目の4月1日・DeNA戦(京セラ)で1回を無失点に抑えプロ初ホールドを記録。伊藤将が左肩違和感で開幕ローテを外れ、代わった秋山も結果を残せず、村上に出番が巡ってきた。

 運命の4月12日・巨人戦(東京ド)-。今季初先発すると、7回を完全投球。1-0の八回に交代を告げた岡田監督の采配には賛否両論が巻き起こり、「村上」の名は一躍、球界にとどろくこととなる。野球人生が変わった夜、「もう動けない」ほどの疲労感を感じながらも、それ以上の充実感で満たされ、なかなか寝付けなかった。

 その後の快進撃は周知の通りだが、根底には過去の苦い記憶がある。1年目の21年に2度の先発も、いずれも序盤でKOされ、2試合で計5四球。「打たれたくない」-逃げの気持ちが先行し、実力を発揮できなかった。だからこそ、今季は覚悟を決めていた。

 「やられるんだったら、フォアボールを出してとかより、めった打ちされて終わろう」

 球宴出場に、リーグ初の新人王&MVPをW受賞…。開幕前には探しても見つからなかった“2文字”は今、18年ぶりリーグVの立役者として球団史に刻まれ、新聞の1面に躍る。そんな村上の原点は、故郷・南あわじでの出会いにあった。

 ◆村上 頌樹(むらかみ・しょうき)1998年6月25日生まれ、25歳。兵庫県南あわじ市出身。175センチ、80キロ。右投げ左打ち。投手。智弁学園3年のセンバツで優勝し、東洋大を経て20年度ドラフト5位で阪神入団。21年に2軍で最多勝、最優秀防御率、最高勝率の3冠。22年も最優秀防御率、最高勝率の2冠。21年5月30日・西武戦で1軍初登板初先発。今季は最優秀防御率のタイトルを獲得するなど大ブレークしてリーグ優勝&日本一に貢献。セ・リーグMVPと新人王をダブル受賞した。

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