【とらものがたり・村上頌樹投手編(6)】「リードしてみたい」“ケガの功名”で矢野監督猛プッシュで虎入りも 挫折の連続

 18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に貢献した阪神選手の野球人生に迫る新企画「とらものがたり」。大竹耕太郎投手に続く2人目は、プロ未勝利から今季のMVPに輝くまでの大ブレークを果たした村上頌樹投手(25)が登場する。第6回は「リハビリ組」からスタートし、挫折の連続だったプロ1、2年目を振り返る。

  ◇  ◇

 記憶している虎党は少ないかもしれない。村上のプロ生活は「リハビリ組」からのスタートだった。

 東洋大4年で迎えた2020年9月の秋季リーグ戦。痛み止めを飲みながらも振り続けていた右腕に限界が訪れた。右前腕の肉離れで無念の離脱。ドラフト直前の最大のアピール機会を失った。「ケガをしてしまって、選んでくれる球団は少ないだろうと覚悟していました」。不安いっぱいで臨んだ、同年10月26日のドラフト会議。右腕を気にかける人物がいた。

 当時の矢野燿大監督だ。ドラフト当日に矢野監督が球団に猛プッシュし、獲得が実現。指揮官は「リードしてみたい。ケガがないと、この順位で取れていない選手」と村上を高く評価した。故障がなければ上位指名で消えていたかもしれない素材。まさに“ケガの功名”といえる運命的な指名により、幼少期から憧れたタテジマへ袖を通すこととなった。

 だが、入団後も挫折の連続だった。故障が完治して臨んだルーキーイヤーは、2軍で10勝1敗、防御率2・23と圧巻の数字を残し、勝率1位も含めてファーム3冠を獲得。これを1軍の舞台でも-。そう息巻いていた自信は、ことごとく打ち砕かれる。

 「思い出したくもない」。飛躍を遂げた今でも回顧するには顔をしかめるほどの苦い記憶が、村上の脳裏には2度刻まれている。21年5月30日・西武戦(メット)。念願のプロ初登板を果たすも、3四球と制球を乱して三回途中5失点とホロ苦いデビュー戦となった。リベンジを期した同年8月28日・広島戦(マツダ)では、2被弾を喫するなど3回5失点でプロ初黒星。悔しい結果だけが自身を責めたのではない。「打者から逃げていました」。2度目の先発後は、後ろ向きな思考で実力を発揮できなかったことを矢野監督から厳しく指摘された。

 その後は、迷路に迷い込んだ。2年目の22年はファームで2年連続のタイトル獲得も、1軍登板はなし。同年4月には、藤浪と伊藤将が新型コロナウイルスに感染するなど先発陣が苦境に陥ったが、村上が1軍へ呼ばれることはなかった。この出来事が、さらなるどん底へと突き落とす。「トレードに出されたい。ここ(2軍)で練習していて意味あるんやろうか…」。思わずこぼれた弱音。腐りかけていた。

 そんな時、村上が自ら作り上げた“1軍の壁”を指摘する先輩が声をかけた。

関連ニュース

編集者のオススメ記事

阪神タイガース最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(阪神タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス