阪神・近本 日本シリーズMVPも「心の余裕」はなかった 圧倒的打撃の裏にあったメンタルの変化とは
阪神の近本光司外野手(29)がデイリースポーツ読者に向けて、さまざまなテーマをもとに本心を明かす企画「謳歌」。今回は優勝旅行先の米ハワイからお届けする。打率・483(29打数14安打)で38年ぶりの日本一に貢献し、最高殊勲選手賞(MVP)に輝いた日本シリーズ。圧倒的な打撃の裏で「心の余裕」はなかったと明かした。頂上決戦の大舞台に、どのような心理状態で向き合っていたのか-。
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デイリースポーツの読者の皆さん、こんにちは。阪神タイガースの近本光司です。優勝旅行でハワイに来ています。長い長いシーズンを終えて、家族とゆっくりとした時間を過ごせています。
「優勝記念パレード」(11月23日)には、たくさんの方に来ていただいてありがとうございました。本当にすごかったです。こんなに人がいるのかと思って驚きました。あの時「鳥肌が立った」と言いましたが、あまりの人の密集で脳に対する刺激が強すぎて、頭が痛くなったほどです(笑)。いつも甲子園の大観衆の中で野球をやらせてもらっていますが、比にならないくらい、全然違いました。想像を絶する感覚で、またパレードをやりたいなと思いました。
日本シリーズではMVPを獲得することができました。レギュラーシーズンと違い、短期決戦ということもあって、打席ではあえて早めに仕掛けていきました。相手はいい投手ばかりなので、追い込まれてしまうと決め球と勝負しなければいけなくなるからです。
それが自分の「本当の姿」でもありました。まだまだ初球からいくことができるんだなと。これをまた、来年の「引き出し」の一つとして使えることが分かりました。ただ、勘違いしやすいのですが、日本シリーズで結果が出たからと言って、それが正しい、正解というわけではありません。「本当の姿」と言いましたが、あくまでも「引き出し」の一つに過ぎないということです。
少しメンタルの話をしたいと思います。日本シリーズの時には「心の余裕」がありませんでした。ペットボトルに入っている水を思い浮かべてください。水の部分が日本シリーズのことだとすると、それ以外の空いている隙間の部分で野球以外の違うことを考えられる、それが「心の余裕」だと僕は思っています。日本シリーズやクライマックスシリーズでは、水の部分がほぼ満杯の状態で満たされていました。それは重圧とか責任、緊張が理由ではありません。自分のやるべきこと、自分がどうしないといけない、こうしないといけないという部分が大きくなり過ぎて、心の大部分を占めていたんだと思います。
隙間の部分=「心の余裕」がわずかになることで、ささいなことでイライラしたりしていたことも自分では理解していました。周囲の言動とか、自分のことに対してもどうとか、自分の思うようなスケジュール通りに物事が運ばなかったり、時間がなくなるとか。そういうことに気を使いたくないと思っていました。何か一つ、考えている部分が大きいというだけ。僕にとってはそれが日本シリーズだったんです。だからと言って、隙間の部分を広げようとも思いませんでした。せっかく日本シリーズのことだけを考えているのに、どうしてその部分を小さくして、他のことを考えないといけないんだと思っていました。でも、今はそれでいいと思っていました。
例えば車の運転していてガソリンが少なくなってきたら、少し「心の余裕」がなくなってくると思います。ガソリンがなくなるというストレス、車が動かなくなってしまうというストレスがどんどん大きくなって、運転に対する余裕がなくなってくるからだと思うんです。今回の心の状態は、そういう状況に似ているのかなと思ったりしていました。
僕は意識していなかったのですが、日本シリーズの期間は家庭での会話も全然なかったらしいんです。全て終わってから妻と話した時があったのですが、あの時はたぶんこうだったから、こうだったと思うんだけどと自分の状況を説明して、実際にどうだったって聞いたら、全然しゃべらなかったと言われました。でも、妻は日本シリーズというのもあるし、そういう「心の余裕」のことも分かっていたから心配していなかったし、無理してしゃべろうともしなかったと言ってくれました。そういうところも理解してくれていたんだなと、本当に感謝しかありません。
来年は球団初の連覇に挑みます。今年の優勝がチームに何をもらたしたのか、今は分かりません。監督が喜んでいる、球団が喜んでいる、ファンの方が喜んでいるということが何よりだと思います。2位だと誰も覚えていません。だから優勝した時のメンバーであったというのは、すごく光栄なことかなと思います。この先、引退した後にいろいろ思うことがあるのかなと、今は感じています。