【とらものがたり・村上頌樹投手編(7)】“1軍の壁”の正体知った「青柳さんとの自主トレ」

 18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に貢献した阪神選手の野球人生に迫る新企画「とらものがたり」。大竹耕太郎投手に続く2人目は、プロ未勝利から今季のMVPに輝くまでの大ブレークを果たした村上頌樹投手(25)が登場する。最終回は今季の飛躍につながった青柳との自主トレを振り返る。

  ◇  ◇

 突然だった。昨秋、独身寮「虎風荘」の部屋に青柳が尋ねてきた。「自主トレ誰とやる?決めてないなら一緒にしよう」。23年1月に静岡・沼津で行う合同自主トレへの誘い。「行きます!!」。村上はその場で即答した。

 投法も出身地も違う5歳下の後輩を青柳が誘ったのには、理由があった。「頌樹はファームですごい成績を出していて、それが1軍に通用しないわけない。自分で『1軍の壁』を作っているんじゃないかというのを伝えられたら」。昨季の村上は、ウエスタン17試合に登板して7勝3敗、防御率3・09。最優秀防御率と勝率1位でファームでは2年連続のタイトルを獲得した。

 2軍にとどまるような選手じゃない-。そう感じるだけに、1軍登板なしに終わった状況が先輩右腕には歯がゆかった。自身も1軍に定着できずにいた若手時代を過ごしただけに「僕と同じようなきっかけを作れるか分からないですけど、少しでも伝えられたら」と話していた青柳。そんな思いが、村上にとって大きな転機となる。

 パチッ。迎えた青柳との自主トレ中、キャッチボールをしていると、自分だけに伝わる“衝撃”を感じた。歯車がかみ合ったような感覚。「フォームのタイミングがハマったような感じがあった」と振り返る。

 “師匠”から説かれたのは「足を着いてから投げる」ということだ。「160キロ投げても打たれるような世界。しっかり足の力を使って軽く投げても伸びるキレのある直球を求めました」。下半身の粘りを意識することで、上半身の開きを抑え「捕手の奥まで伸びる」ような直球へとたどり着いた。

 技術面以上に影響を与えたのは、考え方の面だ。「『1軍と2軍に違いはないから』と言われました」。打者を恐れ、自分との勝負になっていたルーキーイヤーの1軍登板。長い2軍生活により失っていた自信。“1軍の壁”の正体を知り、メンタル面からも成長を遂げていった。

 心身ともに自信をつけたことが、今季の飛躍につながった。「青柳さんとの自主トレが良いきっかけになりました。本当に感謝したい」。来年1月にも2年連続で弟子入りの予定。大きく動き始めた村上の物語は、まだ始まったばかりだ。

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