阪神の日本一を支えた「食」が書籍化 球団初認定の料理本「トラめし」 監修・栄養アドバイザー吉谷佳代さんに聞く
阪神球団初認定の料理本となる「阪神タイガース認定レシピ集 トラめし 強い体、疲れない体をつくる!」(税込み1700円)が17日に講談社から発売される。監修したのは阪神の栄養アドバイザーで公認スポーツ栄養士の吉谷佳代さん。出版の経緯や、昨季リーグ優勝、日本一を果たしたチームを支えてきた裏側を明かした。
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「トラめし」には吉谷さんがこれまでチームの食を支えてきた知識やアイデアがたっぷりつまっている。2015年から阪神の「栄養アドバイザー」を務めてきた吉谷さん。それまで球団に栄養士はいたが、「体作りを強化したい」という球団の意向でより専門的な知識を持った人を探すことに。知り合いを通して吉谷さんの元に依頼が届き、「関西出身で小さい頃から阪神を見ていたし、応援もしてた」と快諾した。
食に関する知識をさらに深めてもらうため月一回、食に関する情報紙を選手に向け発行してきた。シーズン序盤にはタンパク質や筋肉の話、夏には熱中症対策の話など月ごとにテーマは異なる。選手の妻向けには、旬の食材を使ったレシピなどを載せた「トラめし」を提供してきた。
「それらが結構なボリュームになってきたので、球団内だけでなく外にも出したいよねと球団の方が言ってくださっていて。でも優勝もない中で出すのもどうかなという話もあって…」と吉谷さん。昨季リーグ優勝、日本一も果たしたことで、ついに出版が実現された。
普段、吉谷さんがメインで行っているのが鳴尾浜の選手寮「虎風荘」の1カ月分の献立を調理担当者と相談しながら考えること。寮生以外の鳴尾浜で練習する選手も食べる昼食では、「飽きがこないように」と日替わりどんぶりは1カ月の中で同じ種類が出ることはない。
「野球はパワーを必要とする競技。夏場でも体重を維持しないといけないからお米が大事」と吉谷さんは話す。なるべく多く摂取してもらうために、ご飯がすすむようなおかずにすることを意識。特に好評なのが豚キムチなどの“ピリ辛系”だという。食事量が落ちてきた選手でも食べやすいように麺類やチャーハンも用意するなど、炭水化物を摂取しやすいように工夫を凝らしている。
献立を考える上で、「大変だったのはコロナ禍」と振り返る。普段なら、食事後にコンビニなどで甘いものを買いに行く選手も多いというが、外出自粛もあり、できなかった。そこで吉谷さんは、デザートのバリエーションを増やすなど工夫。オフ前は焼き肉を食べに出かける選手も多かったため、少しでもその気分を味わえればと、一人用焼き肉の頻度も増やした。献立を試行錯誤することで、選手の心の健康も支えてきた。
献立を考案する以外にも、選手への直接指導も行っている。若手選手が中心の強化指定選手15人からは毎日の食事の写真が送られてくる。フィードバックをする中で、好き嫌いのある選手には二つのアプローチをしているという。
一つ目は「頭で理解してもらう」こと。「なぜ、その食材を食べなければいけないのかを理解してもらう」と吉谷さん。説明によって頑張って食べる選手もいるが、それでも克服できない選手も。その場合にされる二つ目のアプローチが「代替物の提案」だ。例えばトマトが嫌いなら、同じような栄養素を持った野菜を提案。その野菜もだめなら野菜ジュース、それもだめならサプリと段階を踏んですすめるという。
選手とは球場などで直接会って相談を受けることも。その多くが体重管理や疲労回復についてのもの。9年間さまざまな選手を見てきた吉谷さんは「まじめな選手が多い。食への意識が上がってきている」と話す。「みんな、サラダとか野菜をよくとりますね。好きじゃない人もいると思うけど、習慣化している」と意識の高さを明かした。
特に変化を感じるというのが大山。「入団した時から、元々太りやすくて体脂肪が増えやすい体質。でも当時の金本監督に『体を絞れ、でも体重は落とすな』と言われて」。入団当初は好きなものを何でもかまわず食べていたという大山には、まず日常的に飲んでいたジュースをやめさせ、水や炭酸水に替えることを提案した。
また、白米を控えようとしていた大山に「ご飯は減らさずに、おかずを減らしたほうが体脂肪が減るよ」とアドバイス。「頑張って知識を増やして自分でコントロールできるようになりました」と吉谷さんは変化を明かした。
選手だけでなく、選手の妻から相談を受けることも多い。食事の写真とともに「何が足りないですか?」と質問されることも。専門家の目線から助言を送り、それぞれの家庭の食事も支えている。
昨年は日本一をつかむまで、吉谷さんも奮闘し続けた。日本シリーズが行われた11月上旬は気温もかなり下がり、選手たちの疲労も蓄積されていた。気温対策のために、温かいスープを提供し、運動中以外は冷たい飲み物をやめることを推奨した。白米以外にも疲労回復効果のある玄米も用意。野菜の摂取量を増やして疲労回復につながる抗酸化作用を狙うために鍋物も増やした。
虎戦士たちの健康を支え、リーグ優勝、日本一に貢献した吉谷さん。それでも「うれしいことですけど、食事の力は大したことなくて。選手の頑張りが全て」と謙虚に話した。ただ、選手らからは「ありがとうございます」と感謝の言葉を伝えられ、選手の妻たちか「おかげさまで優勝できました」と連絡も。「そう言ってもらえた時は、関わってきてよかったと思いました」と喜びを実感したという。
今回監修した「トラめし」では、選手に提供されている料理の中で、家庭でも簡単に作れるものを紹介。「スポーツをしている子どもやその親御さんに読んでほしい」。吉谷さんはそう思いを明かした。