阪神・嶌村球団本部長 生え抜き中心に「危機感」 選手層厚くなるも「うまくいき過ぎ」 育成へ思い語る
阪神の嶌村聡球団本部長(57)がデイリースポーツの単独インタビューに応じ、チーム編成の未来図などを語った。今オフは国内フリーエージェント(FA)権を取得した大山悠輔内野手(30)ら4人の慰留に成功。チームは近年、生え抜き中心で安定した成績を収めているが「うまくいき過ぎている」と危機感を強調した。選手育成や球団運営、野球の普及・振興に懸ける思いなどを聞いた。=前編。
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-国内FA権を行使した大山が残留。今オフ最大の任務だった。
「4番バッターですから。4番やエース、クローザーが抜けるというのは、なかなか1年じゃ(補強が)追いつかない。この選手の次にこの選手が出てくるからというわけにはいかない。4番の流出というのは、チームづくりにおいて非常にマイナスになる。プレッシャーはずっとありました」
-残ってくれるという手応えはあったのか。
「こればかりは分からなかった。一定の覚悟はしていました。大山という選手は、プレー以外でも引きつけるものがある。やっぱり中心だから。組織(チーム)は中心があってこその機能するもの。監督が代わって、来年2月から『行くぞ』と言ってるところに『すみません、4番が抜けました』というのは言えない。覚悟をしながら、ただ内心は考えないように、やることをやるだけと。後は決めるのは選手だから。(残留が)決まった時は『良かったな』と実感がありました」
-今年は国内FA権を取得した4人全員が残留した。
「大山はもちろん、坂本にしても、梅野と捕手2人態勢でやってきた一人だから。原口も糸原も、移籍となれば、やはり衝撃というのはある。今回はファンの方々の反応がすごい。ネットを見たら『泣きました』という人もいた。そういうことを聞かされると、根付いたファンの皆さんの付託を受けるという大事さが改めて分かりました」
-近年はFA選手が全て残留している。
「『阪神タイガース』という強いブランドがあるのも前提ですが、球団に対して選手がどう考えるか、どう感じるかというのが一番のポイントになってくる。残ってくれるには、選手にとって何かしらの魅力が必要。それは選手によって違う。だから、全てにおいて魅力ある球団づくりというのを意識していくことが一番肝要かなと。環境などのハード面はもちろん、複数年契約など個人の条件は当たり前。選手にここでプレーした方が自分の人生において素晴らしいと考えていただけるような球団になるのが一番と常に思っています」
-若返りを図りながら、選手層は厚みを増している。
「優勝した03、05年が黄金期だった。その後は黄金期のメンバーが残りながら、『対症療法』と私が呼んでいる期間があった。13年に福留、西岡を獲得したり、14年は外国人4人が個人タイトルを取ったが、それでも優勝できなかった。金本監督ぐらいから抜本的な改革期があって、ドラフトで取った生え抜きを中心としたチーム作りが始まった。その中でFA補強も少しは入れていくというところで糸井、西勇に来ていただいた。彼らがいなければ改革期も成り立っていない。それなりの順位にいながら改革していかなければいけないので。矢野監督の時に改革が鮮明化してきて、岡田監督で花を開かせてもらった。今は黄金期に入っているのではないか」
(続けて)
「ただ、ドラフトで取った選手が絶対に活躍するかというと、そうは問屋が卸さない。選手は機械じゃないから。チームのサイクルの中で、FAで他球団から4番バッターを取りにいく、中軸の外国人を取りにいくという時期は絶対に来る。それはあってしかるべき。生え抜き中心主義が絶対というのも違うと思っている。だから今は危機感を持っています」
-今はうまくいき過ぎているという危機感か。
「うまくいき過ぎている。こんなにドラ1が活躍することはなかなかない。これがずっと続くとは考えられない。だからFAも外国人も(取りに)いきますと言っている。そういう意識を持ってチーム編成をしていかないと、またどこかで(成績が)ガクンとくる」
-選手育成についての考え方は。
「高卒の育成プログラムと大卒の育成プログラムがある。昔は大卒ならすぐレギュラーだったが、今は大卒でも育成期間が2年は必要。岩田(稔)でも(躍進は)3年目だった。岡留も今年が3年目。だから大卒は25歳を目標にしたらいい。1年目だけを見ない。2年目、3年目の子が出てくる、これが最大の補強です。高卒は5年目。高卒は(入団から)4年間は大学に行ったつもりでやります。まず人を作ってください、取り組めるだけの人間力を作ってくださいと。そうすれば勝手にやりますから。5年目で上(1軍)に行って(2軍との)アップダウンを繰り返す。6年目で少し1軍の期間が長くなる。7年目になったら1軍に定着する。これが成功例です。特別な選手以外はね。前川は特別。入った時からスイングスピードも体も違っていたから。井上あたりが一般的なケースかなと思う」
-高卒選手の育成は難しい。
「藤川監督も出てきたのは6年目です。西純は3年目でドーンときたけど停滞している。今年5年目で、普通だったらというところで正直、計算が狂っています。高校生が一番難しい。まずは人間形成を一番に置いた上でやっています。高寺は来年で5年目。たぶん来春のキャンプで上(1軍)に行くと思うが、順調にきている。小幡も今年で6年目が終わる。小幡も高寺もできている方だと思う。簡単に人は育たない。根気です。本人の努力と周囲の根気。一言で『ドラフト中心』と言えば非常に聞こえもいいし、理想論でもある。もちろん理想は必要。理想と現実の間がボヤキ(笑)。うまくいかないこともある。これが10年20年続いたらノーベル賞もんでしょう(笑)。他球団でも世代交代が一番困っている。危機意識を持ちながら、過去、現在、未来とチームの連続性を大事にしながら理想に向かってやっていく」
=後編に続く。