目標は怒られない…変な野球選手だった

 昨季限りで現役を引退したデイリースポーツ評論家・金本知憲氏が語る新連載「21年間の舞台裏」をスタート。第1回は「プロ初安打」。これまで語ったことのない、あのシーンの舞台裏に隠れた秘話をアニキが語り尽くす。

 僕は変なプロ野球選手でした。20年前のことです。あのころの自分を振り返れば、そんな表現がぴったりだと思います。

 プロ初安打は、はっきりと覚えています。93年の8月8日に地元広島で、ヤクルトの山田勉投手から打った二塁打。プロ2年目のその年は開幕から2軍暮らし。8月1日にようやく1軍から声がかかったのですが、最初の打席は横浜戦で、一ゴロ。4日後の中日戦で空振り三振。次打たなければ、2軍落ち…。そう思いながら打席に立ったので、初安打の打球が抜けた瞬間も喜びはまったくなくて、ただ、ホッとした気持ち。これで、2軍に落とされずに済む。あと2打席はもらえる。そんな感情でした。

 2本目はそれから20日ほどたった東京ドームの巨人戦。相手投手は石毛博史投手だったと思います。結果を出せば、絶対にレギュラーをとるぞ!となる。20代前半の若手なんて、皆やる気満々。でも、僕は違いました。73キロだった体が、さらにやせ細っていったのはこのころです。

 球場にいけば、おなかに激痛が走る。市販の薬を何種類試しても効き目がない。食べたら吐き、食べたら吐き…。9月になって、スタメンで使ってもらえるようになってからは、緊張とプレッシャーの連続で、トイレに駆け込む毎日でした。

 原因は精神的なもの。胃潰瘍(かいよう)でした。打撃は水谷実雄コーチから。守備と走塁は高代延博コーチから。怒られない日なんてなかった。とくに高代さんからはストレス発散かのように(笑い)、毎日シボられました。ポジショニングが悪い。スタートが遅い。集中力がない…。打撃は水谷さんから毎打席、なんであの球に手を出さんのや!あんなクソボール振るか?と。試合に出ない日も練習を終えると、疲労困憊(こんぱい)。病院で処方された潰瘍の薬を飲んだら、ようやくおなかの痛みは治まりました。体重は70キロちょっとまで落ちましたから、今と20キロ違う。別人ですよ。

 ライバルなんていませんでした。ほかの選手を見る余裕がなかった。自分の世界で精いっぱい。きょうをどう生きるか、みたいな。野球漬けというより、プレッシャー漬け。期待なんてまったくされていないのに…。ヒット打とう!いいプレーをしよう!いう前にまずミスをしないこと。目標は、きょう怒られないこと!でしたから(笑い)。変な野球選手でしょ。

 そんな僕に話し掛けてきた選手がいました。「金本さんなら、毎日試合に出れば、20本はホームランを打てますよ」。は?何をバカ言うとるんじゃ?ってな感じです。ヒット1本打つのが精いっぱいの人間を捕まえて、20本?まったく意味が分かりませんでした。でも、いま振り返れば、この言葉はとても重たかったんです。

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