岡田監督 アドバイスは単純な言葉で 大谷が捕手心理を一言で救ったように【7】

 岡田監督(右)と梅野
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 阪神・佐藤輝の打球が強くなった。岡田彰布監督が「右方向にファウルを打てとアドバイスした」と明かした。私との会話で岡田監督に「振り遅れて、ファウルが左方向にしか飛ばない。右へのファウルは1本もない」と話したばかりだった。

 監督から選手への指示、アドバイスは単純明快に。脳の指令で体が反応する。理屈ではなく方法。どうすればいいのかが指導の鉄則だ。岡田監督の言葉で佐藤輝は生き返った。途端に右方向へのファウルが出た。強い打球が右に飛び始めた。

 対広島戦の4号も左翼に押し込んだのではない。振り切ったスイングが、打球を左方向に運んだ。1985年、4番掛布は「流し打ち」という表現を嫌がった。

 「レフトに飛んだから流した、ではない。左方向に引っ張っているんだよ」

 甲子園の浜風とけんかしない打ち方。85年のクリーンアップは、三塁・一枝コーチのサインを見なかった。何も出ない。一枝コーチは「お好きにどうぞ」と両手を差し出すだけ。サインはただ一つ。「ホームラン」だけだった。

 岡田監督は「優勝」と言わずに「あれ」と言う。オリックス監督時代に、交流戦で優勝を意識した選手が硬くならないように、ともっともらしい説がある。本当は担当記者がびびって「ここまで来たら…」とだけ聞いた。岡田監督が「そら、あれよ」と答えた。

 元祖は吉田監督だ。吉田監督も「優勝」とは言わなかった。「チーム一丸」「土台作り」「一蓮托生(いちれんたくしょう)」「挑戦者」。単純なフレーズを繰り返した。「吉田さんが元祖かもしれん。優勝スピーチでもうちは挑戦者です、言うてた。おれも周りが言うからそうしとるけど、監督がずっとあれ言うとるのも、おかしないか」。岡田監督も元祖吉田を認めている。

 WBCで大谷翔平は多くの名言を残した。わたしが好きなのは、現地リポーターに「あなたはどこの惑星から来たのだ」と聞かれたときの答え。「私は日本の、野球チームもない田舎街から来た」。もうひとつは捕手に伝えた言葉。決勝でバッテリーを組んだ中村悠平捕手が明かした。

 大谷と迎えた最終回、マウンドでの打ち合わせが長かったが、質問された。「大谷投手はブルペンでも、球を捕ったことがなかった。まったくの初めてだった」。そんな不安な捕手の心理を、大谷はすべて見抜いていた。

 「大谷投手は、甘くていいですから大きく構えてくださいと、言ってくれた」と中村が振り返った。この試合だけで7人目の投手。世界トップレベルの持ち球に、組み立てとサイン。対応した中村もすごいが、大谷の視点が桁外れだ。

 梅野が本来の調子を取り戻せない。坂本はすべてのピースがはまっている。坂本は小さく構えて時には片膝を落とし、ピンポイントのリードをする。体を動かさず手首を固定したまま、ミットの角度でストライクゾーンを作る。梅野は大きく動く。ボディアクションでワンバウンドを止める。左ひざを入れてから、右体重に素早く移す二塁送球が見せどころだ。

 投手によって好みは変わる。大谷はその捕手心理を一言で救った。坂本、梅野の特徴は打撃のタイプにも共通する。いまの梅野には、大谷の言葉を送りたい。甘くなってもいい、大きく構えよ。梅野の特徴だし梅野らしさだ。守りも打撃も、それが梅野の魅力でもある。(特別顧問・改発博明)

 ◇改発 博明(かいはつ・ひろあき)デイリースポーツ特別顧問。1957年生まれ、兵庫県出身。80年にデイリースポーツに入社し、85年の阪神日本一をトラ番として取材。報道部長、編集局長を経て2016年から株式会社デイリースポーツ代表取締役社長を務め、今年2月に退任した。

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