巨人・原監督が大学時代「何一つ、岡田さんにはかなわなかった」わけ 今も好敵手を演じる岡田監督と原監督【14】
東京ドームの対巨人3連戦で1勝1敗1分け。「ええ試合やった」と岡田監督は振り返った。伝統の一戦と呼ばれるにふさわしい見応えがあった。岡田監督の言う「ええ試合」は見る側だけでなく、やる側にも感じられたことだろう。
スタメンからの選手交代、投手と代打の見極め、走者の動かし方、守備隊形。一つ一つの采配に岡田監督対原監督のすごみが出た。岡田監督にはそれが楽しい。前回の中日・落合、巨人・原とのときのような監督同士の戦いが好きだ。
阪神の守備が試合展開を引き締めた。ノイジー、中野、近本と目に見える好守も多かった。わたしが好きなのは長野のゴロをはじいた岩貞の一塁送球だ。一瞬慌てたが、素早くグラウンドにたたきつけた。
大山が難なくワンバウンドでさばいた。九回二死二塁だから、どこかにミスがあればサヨナラ負けの緊迫感でのプレーだった。3試合すべてで実は、大山の守備が阪神全体の守備を支えている。一塁に打たせれば、一塁に投げれば、何とかしてくれる安心感がある。
青柳に直接聞いた。「青柳投手の一塁へのワンバウンド送球が、多くの投手に勇気を与えた。マウンドからの全力投球はできるが、バントなどの一塁送球がうまくできないという理由で投手を断念した子供たちに、これでもいいんだよ、こういう方法もあるよと可能性を示した」。青柳はうなずいた。
「もし自分だけそうしろと言われたら、抵抗があったでしょうね。普通に投げることが苦手なんだと、皆の前で言われているようなもんで、格好悪いですよね。安藤コーチはゴロ処理をワンバウンド送球するという練習を、全員でしてくれた。ワンバウンドでなくてもいい、慌てたときはグラウンドにたたきつければ、手の届く範囲に投げれば大山なら何とかしてくれる。だから安心して一塁に投げられます」。岩貞も練習で繰り返したプレーがとっさに出た。
岡田監督の野球に対する考え方に「どちらが上かは、同じグラウンドで一緒に練習すれば、すぐに分かる。選手が一番感じている」というものがある。だからこそどっちの選手を使うかの采配を、間違ってはいけない。
この言葉は2004年のキャンプで新人の鳥谷か、3割打った藤本かどちらを遊撃のレギュラーで使うかの選択のときに出た。周りには藤本という声もあった。岡田監督は迷いなく鳥谷を選んだ。その後の結果には、鳥谷は言うまでもなく藤本も納得した。
今季開幕前、NHKの企画でセ・リーグの全監督が対談した。わたしが驚いたのは原監督の発言だった。司会が早大4年の岡田と、東海大3年の原が大学日本代表でクリーンアップを組んだと振られた。3番サード原、4番ショート岡田。「いやそら原がサードしかできない言うから、しゃあないやん」と岡田監督が言った。原監督は「その通りです。わたしは何一つ、岡田さんにはかなわなかった」と言った。
走攻守、4番打者、リーダーシップまで含めて何一つ…。プロ野球監督としての立場では決して弱みを見せない原監督が、40年以上前のプレーヤーとしての感想とはいえ、これほど完敗を口にするとは。岡田監督は「そらそうよ」という顔で平然としていた。
同じグラウンドで練習すれば、どちらが上かは選手が一番よく分かっている。岡田理論を証明する瞬間だった。何一つ…。もちろんプロ野球の監督采配は、何一つの中に含まれてはいない。とはいえ開幕前の巨人監督が、阪神監督に対して漏らした言葉。今季の答えはまだ出ていない。(特別顧問・改発博明)
◇改発 博明(かいはつ・ひろあき)デイリースポーツ特別顧問。1957年生まれ、兵庫県出身。80年にデイリースポーツに入社し、85年の阪神日本一をトラ番として取材。報道部長、編集局長を経て2016年から株式会社デイリースポーツ代表取締役社長を務め、今年2月に退任した。