「バースの再来」って言葉、そろそろNGワードにしない?
毎年のように春先、期待を込めてマスコミで使われる「バースの再来」という言葉に違和感をもつ。助っ人として阪神に加入し、しかも左打者でスラッガーときたら、例外なく、この言葉が使われていると思う。今年はジャスティン・ボーア内野手がやはり何人目かの「バースの再来」として注目されている。
巨人との開幕3連戦、12打席でノーヒット。ただ、わずか3試合でファンやマスコミから、ため息がもれているのは「バースの再来」という華美な枕詞にも原因があるのではないか。打てなかったのはボーアだけではないし。
そういえば、阪神と同じ関西に本拠地を置くオリックスでは、「タフィー・ローズの再来」などという言葉は聞いたことがない。オリックスの助っ人であるアダム・ジョーンズはボーアよりもメジャーの実績がありながらである。
これが人気チーム、阪神の特殊事情なのだろう。言い換えれば、それほどランディ・バースが阪神ファンにとっていかに「神格化」されているかの証し。2度の三冠王に、シーズン打率.389はいまもNPBの最高記録だ。しかし、いつまでも幻影を追っては進歩がないかもしれない。
新加入の外国人打者は焦ったらダメ。時間をかけて起用し続けないといい結果が出ない。他球団の主砲を見たら、当初不振だった選手は何人もいる。日本ハムのレアード 、広島のエルドレッド、楽天のウィーラー、そして阪神のバースだってそう。初安打は16打席目だった。そして、1983年の外国人枠制限により、バースかもう一人の野手ストローターか、どちらか解雇しないといけない状態だったが、幸いにもチームはバースを残したから1985年の日本一があった。
逆のデータではヘイグ、キャンベル、ロジャース、ロサリオ、ナバーロ、ソラーテはいいスタートを切ったが、最終的に1シーズン持たずに帰国してしまった。良いスタートが全てではない。
救世主を待つ阪神ファンの気持ちは分かる。しかし、バースという基準、理想像は助っ人にプレッシャーを与えてしまう。僕は数カ月前に元阪神のクレイグ・ブラゼル氏と話す機会があった。あの時まだ実戦試合はなかったけど、ボーアについてこう語った。「メディアからキス・オブ・デスを付けられたね。可哀想!」英語でkiss of deathという表現があるけど、命取りになるものと和訳されている。要は、キスのように甘く見えるものが実際に死に至ってしまう。この際、チームの勝利のために「バースの再来」はNGワードできないものかな。
◆トレバー・レイチュラ 1975年6月生まれ。カナダ・マニトバ州出身。関西の大学で英語講師を務める。1998年に初来日、沖縄に11年在住、北海道に1年在住した。兵庫には2011年から在住。阪神ファンが高じて、英語サイト「Hanshin Tigers English News」で阪神情報を配信中。