「水原一平あっての大谷翔平ですよね」 初参加の「野球文化學會」で研究発表→参加者の言葉に救われた

 ついに阪神がキャンプインしました。日本一に輝いた昨年は、感動、勇気、希望に溢れた1年間だった。そんなチームに今年から新加入する選手はどんな心境でしょう?新人時代の和田豊2軍監督と同様に「うわー、大変な世界に入っちゃったな」と思ってるでしょうか。カナダ人の筆者は先日、似たような経験をしました。

 1月末、法大で開催された「野球文化學會」の第7回研究大会に初参加したのです。約50名の参加者で外国人はたった一人。年齢層でも40代の筆者は若手の部類でした。他の出席者には、野球界に貢献してきたベテラン記者、研究者、元監督がズラリ。壇上で発表することにもなっていたため前夜は寝つきが悪く、当日も緊張感で頭が真っ白でした。

 プログラムによると、筆者の順番は7人中5番目。しかも、先に発表された方のレベルが高すぎた。1人目は堂々とした口調で、宮城県で新しい高校野球の記念碑の建設運動を起こした経緯を発表。気のせいだったかもしれないけど、筆者には会場のどよめきが聞こえた。ヤバい。僕の研究はこれと比べれば“しょうもなく”聞こえるかもしれない。どうしよう。

 ただ前述の発表者は勇気も授けてくれた。「自ら動かなければ何も動かない」と。そうや!僕がこの学会に入会したのは、自分に刺激を与えるためでもあったし、自分を追い込むためだったのではないか!挫けてはいけない!

 ところが、その後の発表者の方々に再び心を折られた。彼らの経験や準備、トーク力は別世界。すると「続きましてはトレバー・レイチュラの発表です。レイチュラさん、よろしくお願いします」。時は来た。震えながら教壇へと歩いた。

 「皆さん、おはようございます。緊張しているので僕の発表は英語でやってもいいですか?」と冗談で無理矢理に自分自身を落ち着かせた。そして何とか準備した内容を演説することができた。どんな内容かというと、日本プロ野球の(外国人選手のための)通訳者とMLBの(日本人選手のための)通訳者の仕事の比較。仕事内容、やりがい、改善点など。僕が知っている2人の通訳者に経験をヒアリングし、その答えからテーマごとに分析してみた。

 終わった後はホッとした気持ちもあったけど、同時にこの場から消えたいと思った。拙い日本語で薄っぺらい内容を発表して「誰が得するんだ」と。もっと準備しとけばよかった。

 しかし、昼休みに多くの参加者から労いの言葉をもらい、その優しさに驚いた。「新しい視点から通訳者の大切さがわかった」「目から鱗」「感慨深い話でした」「やっぱり水原一平あっての大谷翔平ですよね」など、僕の内容を超えた感想もあった。

 その後の発表者の言葉で筆者に刺さったものがある。その方が奥さんに言われたという「研究を認めてもらいたいのなら、まずはどこかの学会に入りなさい」という言葉。まさにその通りだ。いくら研究しても、みんなと分かち合えなきゃ!日本語が下手でも、野球の知識や経験は周りに劣っても、僕の背景や性格を考えたら、プロ野球の通訳者についての研究には相応しいハズ。野球文化學會の会長・鈴村裕輔教授も「来年も来て、あなたの研究をみんなと分かち合ってください」と激励してくれた。

 そうする!今回は初めての経験で反省点が多かったけれど、まずやってみることが大事だ。一回目は下手でもいいからやってみて、次回その経験を活かすんだ。場違いだと葛藤しても前に進んでみる!

 阪神タイガースに入団した新戦力みなさんも、このキャンプをガムシャラに走ってください。きっとあなたにしかできない何かがあるはず。失敗しても挫けず、その「何か」を見つけてください。そしていつの日か、正真正銘“猛虎の一員”として阪神タイガースを優勝へ導いて!

 ◆トレバー・レイチュラ 1975年6月生まれ。カナダ・マニトバ州出身。関西の大学で英語講師を務める。1998年に初来日、沖縄に11年在住、北海道に1年在住した。兵庫には2011年から在住。阪神ファンが高じて、英語サイト「Hanshin Tigers English News」で阪神情報を配信中。

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