往年のヤクルト最強助っ人守護神「僕の伝記なんて誰か読みたいの?」 MLB逆輸入の物語が米国で書籍化されて話題

 再びストーブリーグがやってきました。日本のスーパースターたちが次々とメジャーリーグに挑戦するオフシーズン。今年は佐々木朗希、菅野智之、小笠原慎之介、そして我らが青柳晃洋までも…。大谷翔平、山本由伸、今永昇太らの活躍がMLBの太平洋地区スカウトの目を日本に向けさせ、その過程で意外な才能も発掘されました。それはNPBで成功のコツを掴んだ助っ人たち。ドリス(阪神→ブルージェイズ)、マイコラス(巨人→カージナルス)、スアレス(阪神→パドレス)、バーネット(ヤクルト→レンジャース)などなど。彼らはNPBで開花し、MLBでキャリアを延ばして夢を叶えました。このコラムでは、その中でもトニー・バーネットの物語にスポットライトを当てます。

 今年、アメリカのジャーナリストであるアーロン・フィッシュマンさんがバーネット氏の人生を描いた分厚い本を出版しました。題名は「A Baseball Gaijin: Chasing a Dream to Japan and Back」。子どもの頃から抱いていた「MLB選手になる」という夢を諦め、日本で再出発→リリーフ投手転向で成功を掴み、やがてMLBのスカウトに注目される。そんな波乱万丈のストーリーが詰まっています。

 とはいえ彼はMLBで4年間のみプレーしたリリーフ投手であり、一般的には書籍化されるほどではないかもしれません。バーネット氏自身も当初は「僕の伝記なんて誰か読みたいの?と思いました」と戸惑ったそうです。実は、ここが面白いところ。フィッシュマンさんが大学時代、多くの3Aの投手たちに取材を申し込んだ時期に唯一返事をくれたのがバーネット氏。それから2人の関係は続き、バーネット氏のヤクルト時代も連絡を取り合っていました。

 本格的に執筆を始めたのは、バーネット氏がヤクルトで優勝した2015年シーズン後にテキサス・レンジャーズと契約した頃。MLBでの契約を機に彼の物語を長編にするチャンスが訪れたのです。書籍化に戸惑っていたバーネット氏自身も「いろいろ考えてみると、自分の人生が多くの困難を乗り越えてきたことを知ってもらえるのは、意味があることだと思ったんです」と心境に変化が生まれたといいます。

 本人の全面協力で、著者はレンジャーズのクラブハウスにも取材が可能に。ストーリーの中心人物はバーネット氏ですが、ヤクルト時代のチームメイトや通訳、さらには英語ブログの運営者など、さまざまな人物のエピソードを織り交ぜ、第三者がバーネット氏をどう見てたかを深く理解することによって、読者がその人生に共感できるように描かれています。

 彼のヤクルトでのキャリアは、決して平坦な道ではありませんでした。2010年シーズンの不振で一度契約を切られ、年末に「リリーフとして再契約の可能性がある」と代理人からの連絡が。彼は迷わず飛びつき「言われた通りにやります」と初心に帰って努力を重ねました。その判断が日本での成功、そして2015年の優勝につながったのです。

 現在、彼はヤクルトの駐米スカウトとして活動しており「毎日野球を見るなんて最高の仕事」と満足げ。本はアメリカで注目を集め、野球書籍の賞にもノミネートされました。次はこの本が日本語に翻訳され、さらに多くのファンに届けられることを2人とも願っています。

 刺激を受けた筆者にも新しいアイデアが湧いてきました。フィッシュマンさんのように、阪神タイガースで活躍した外国人選手の物語を書いてみたい!ファンの皆さん、どう思います?誰を特集すべきですか?

 ◆トレバー・レイチュラ 1975年6月生まれ。カナダ・マニトバ州出身。関西の大学で英語講師を務める。1998年に初来日、沖縄に11年在住、北海道に1年在住した。兵庫には2011年から在住。阪神ファンが高じて、英語サイト「Hanshin Tigers English News」で阪神情報を配信中。

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