鳥谷の気持ち
【2月8日】
鳥谷敬はわがままでいい。僕はそう思う。わがままは語弊がある。でも誤解を恐れず書く。鳥谷はリーダーシップよりも個人記録をがむしゃらに求めて欲しい。これを読めば球団の人は怒るかもしれない。けれど、新人時代から背番号1を見てきて思う。鳥谷が目に見えるチーム愛を醸し出す必要はない。人には適性がある。それを見抜き、見いだすのが管理職。だから、キャプテンに指名した前監督の和田豊は罪深いと思ってしまう。鳥谷が向き合うのは数字でいい。彼が結果を残せば、チームもファンも幸せになるのだから。
打率・236、7本塁打。鳥谷が16年に残した数字だ。不本意でしかない。アベレージはプロ13年のキャリアで最低。本人に聞けば、その技術的な要因は「分かっている」という。今キャンプ、鳥谷は昨季の打撃フォームから明らかに変化をつけた。スタンスが狭くなったので、紙面では「イチロー打法」なんて見出しが躍る。ランチタイムに隣でフリー打撃を行う福留に聞けば「(報道陣は)皆、勘違いしているよね。変えたんじゃない。元に戻したんだよ。トリ本来のものにね」と代弁する。
135、150、172、155、106。これは鳥谷が残した最近5年の年間安打数だ。フルイニング出場が途切れた昨季は例年より100打席ほど少ない。それにしても、3桁がやっとではさみしい。本来の姿を再現できれば貢献度も復活する。鳥谷にどうしても意識して欲しい大記録がある。
「正直、今は全然ないですよ。現役が終わったとき、野球を辞めたときにトータルで、ああ、これだけ打ったんだと思うかもしれないけれど、今は本当にない。2000本打った瞬間に野球人生が終わるんだったら、めちゃくちゃ意識するかもしれない。それで終わるんだと思ってね。今からその数字を意識したところで1日10本も打てない。意識して何か変わるのかといえば、毎日やっていることに変わりはない。通過点というふうにも思わないですよ、僕は」
宜野座ドームの端っこで鳥谷に聞いてみた。残り128本に迫った名球会入りへの意識は皆無だという。顔つきで何となく真意を測れるものだが、その言葉にまったくウソはないと思う。ただ、本人は関心がなくとも僕にはある。なぜって、鳥谷は球史に名を残す大打者になる権利があるからだ。
足し算で興味深い数字が浮かび上がる。通算安打歴代7位の金本知憲は2008年、40歳と9日で2000安打にたどりついた。鳥谷が今年クリアすれば金本より4歳若い、36歳シーズンでの達成になる。仮に今年から5シーズン、毎年128安打を重ねていけば、40歳を迎える2021年シーズンに2512安打に到達。41歳シーズンで金本の2539安打をとらえることができるのだ。
紅白戦で藤浪晋太郎から安打を放った鳥谷にこの日一番の歓声が飛んだ。ポーカーフェースでもいい。背番号1が結果を出せば、チームもファンも必ず幸せになる。=敬称略=