達川光男のいう「いい捕手」

 【5月29日】

 ソフトバンクホークス首脳陣にデイリースポーツの大切な読者がいる。「おう、風!ここでワシを待ってくれたんか?読んどるよ、取材ノート」。背後から広島弁…ホークスヘッドコーチの達川光男とは、昨秋の日本シリーズ以来の再会である。テレビでもお馴染みの名調子。冗談か本音か聞き分けないといけないけれど、当欄の愛読者であることは事実。内容まで詳しく覚えているから恐れいる。

 交流戦の初戦で鳥谷敬の偉大な記録がストップした。いつかはくるものだが、やはり積み上げたものが尊いゆえ寂しさはあるし、金本知憲も思い悩んだはずである。

 仮定の話はしたくないが、この試合を振り返ってみて、どこでどう巡れば鳥谷の連続試合出場が途切れなかったのか…それは分からない。ただ、タイガースの「巡り」を分断させたのは、敵軍の司令塔であったことは確かである。

 そう、ホークスの正捕手、甲斐拓也の守りだ。この夜の両軍先発はセ最多勝のランディ・メッセンジャーとプロ初先発の岡本健だった。虎優勢と思われた試合を拮抗させたポイントは初回だ。阪神1死、走者一、三塁の場面で打席に糸井嘉男。立ち上がり制球に苦しんでいた岡本に甲斐は追い込んでからワンバウンドになるチェンジアップを連投させ、糸井を空振り三振に。これで軌道に乗せてしまった。そして八回。阪神2死満塁の場面でホークス加治屋蓮は全5球のうち4球フォークボールで伊藤隼太を三振に。投手に勇気を与える「甲斐の安定感」にやられた…そんな夜になったように思う。 久々に達川に会うと、あれこれ話は尽きないけれど、近年のモヤモヤをぶつけてみた。ずばり、捕手論。念のため紹介しておくが、達川は往年の広島V捕手である。

 「いいキャッチャー」の条件とはどんなものか、教えてほしい。

 「そりゃ、ピッチャーの為に!という気持ちが強いキャッチャーが一番よ。受けてやってる、じゃなしに、受けさせてもらっているという感謝の気持ちがあるキャッチャーがいい。ワシは江夏豊さんにそういうものを教わったよ」

 なるほど…。けれど、それってなかなか見た目の判断が難しい。もうちょっと分かりやすく…と思っていると、達川は続けてくれた。

 「そういう気持ちはプレーに出るけぇ。配球とかスローイングがどうという前に、プロのキャッチャーで一番大事なのはキャッチング。ウチのキャッチャー見てみ。例えば…ワンバウンドは絶対にそらさんじゃろ。ランナー三塁でもフォークボールの連投、楽勝よ」

 ご存じ、甲斐は育成から正捕手に成長した苦労人である。前述したように、確かに、随所で「投手想い」がプレーに出ていた。

 デイリースポーツ記録部によると、甲斐も我が梅野隆太郎も今シーズンの捕逸は1。「カネ…いや、金本監督はエエ監督になったと思うよ」。達川は何をもってそうだと言わなかったけど、思うところがあるのだろう。鷹と残り2戦、仕切り直そう。「投手想い」な両正捕手の火花に注目したい。=敬称略=

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