中村奨成の現在地に思う…
【7月26日】
昨夏の金属音が忘れられない。カキ~ン。またまた、カキ~ン。どれだけ打つんだ。ドラフトが楽しみ…。高校野球、プロ野球ファン、誰もが、そう感じたはずだ。
「来よった…と思いましたよ」
旧知のカープ2軍バッテリーコーチ倉義和に会いに行くと、そう言って笑った。昨秋ドラフトで緒方孝市がガッツポーズした瞬間、倉はどんな心境だったのか?今さら、ホンネを聞きたくなった。
「来よった…」とはもちろん、中村奨成のことである。
夏の甲子園「99回大会」で6本塁打を放ち、あの清原和博が85年に樹立した1大会5本塁打の大会記録を塗り替えた花形だ。清宮幸太郎と双璧のプラチナを預かるとなれば、それはもう、担当コーチに半端ない重圧がかかるだろう。この想像はきっと遠からずだな…と思っていたら、少し違った。
「特にプレッシャーはなかったですよ。あれだけ凄いといわれた選手ですし、もちろん責任は感じましたけど、しっかり、やらさないと…という思いだけでした」
まず、鼻をへし折ったり?
倉は言う。
「僕からどうこうするとかありませんよ。まず、2月。これまで(広陵高校で)やってきたことがあるだろうから、本人に『それをキャンプで出してくれ』と。3月は『それを試合で出してくれ』と伝えたんです。最初はずっと見守っていました。良いものは崩したくなかったし、良ければ、そのままいこうと思っていましたから」
皆さん、中村奨成の現在地、ご存じでしょうか。1軍昇格はまだなく、戦場はすべてファーム。ここまでウエスタン・リーグ75試合中、スタメンは半分以下の37試合にとどまっている。ちなみに成績は打率・217、3本塁打。
甲子園で大スターであっても、プロ野球はまるで別の世界。だから僕は思う。藤浪晋太郎がいかに有り難かったか。ルーキーから3年連続で2桁勝利…タイガースはどれほど幸せであったか。こんな夜だからこそ、かみしめてみる。
甲子園の申し子が屈辱の32球。不甲斐ないだろう。もどかしさはマックスだろう。でも、それも、もう過去。次へ、次へ進もう。
「奨成は、まずセカンドへのスローが全くうまくいかなかった。高校とプロでは速さが全然違うので早く投げようと思えば暴投になる。僕が言わなくても本人が一番感じたと思います、今のままでは2軍でも通用しないんだ、と…」
首位を独走する〈カープ1軍〉の陰で中村と二人三脚でもがく倉は、2年後、3年後を見据える。
甲子園で暴れた高卒のスターでいえば、中田翔だって1年目は1軍昇格ゼロ。レギュラー定着まで4年かかっている。ドンと「前払い」を済ませた藤浪が3年くらい苦労したって、結果として、ホンモノを得られればお釣りがくる。
降板した藤浪と鳥谷敬がベンチ最前列で長らく話し込んでいた。
虎がこの窮状だから、藤浪で勝てなければ辛い。藤浪本人が一番それを感じているいることを、鳥谷はよく分かっている。=敬称略=