僕はプロ野球選手っぽくない…

 【11月3日】

 新井貴浩と二人きりになったときに聞いてみた。キレイごと抜きに、個人的な目的地を教えて欲しい。取材とはいわず、とにかく41歳の本音を引き出したかった。

 「何にもない。全くないです」

 心の奥底に、な~んにもない?

 「ないんですよ、本当に」

 球史に足跡を残してユニホームを脱ぎたい。プロ野球選手なら誰しも、そんな野望があるだろう。

 「昔、レギュラーになるまでは『レギュラーになりたい』という強い思いはありましたけど、レギュラーになって、少しずつ実績を重ねるようになってからは、個人の達成感はどうでもよくなって。

チームのみんなで喜びたいという思いが強くなっていきましたね」

 05年の本塁打王を皮切りに、阪神時代の打点王、2000安打だって、一昨年のセ・リーグMVPだって、それは嬉しかったでしょうに。個人の記録、名誉を目標にしないというのは、珍しいタイプのプロ野球選手だと思うけど?

 「2000安打にしても、特にそこを目標にしていたわけじゃないですしね。気付けばそれだけ打っていたという感じ。これまでのキャリアを振り返ってみても、何かしら個人記録を目標にして必死にやるということがなかったですし…。何がプロかという定義は分からないですけど、そういう意味では、僕はプロ野球選手っぽくないのかもしれません。プロ野球選手は個人事業主…ですもんね」

 ホークス歓喜の輪を見ることなく最後まで一塁ベンチを追った。日本シリーズを取材してみて、改めて〈新井貴浩のありがたみ〉を発見できたような気がする。これで見納めだと思うと、どうしても視線はずっと背番号25へ向く。例え打席に菊池涼介や丸佳浩、鈴木誠也が立っていても。その誠也が二回先頭でヒットを放つと、チーム最年長は拳を突き上げ、何やら熱っぽい言葉を叫んでいた。CSで菊池が決勝3ランを放った時なんて41歳がどんだけ飛ぶんだ!というくらいの大ジャンプで歓喜。バットの貢献も相まって翌日の観客席には「引退撤回!」の横断幕が掲げられた。新井が「家族」と呼ぶ後輩たちを取材すれば、そんな新井兄ちゃんの振る舞いはシーズン中も全く同様だったそうだ。

 チームメートの殊勲をこれほどまで自分のことのように喜ぶ。果たして、阪神にこんな選手がいるだろうか。いや、阪神だけじゃない。プロ野球界にいるだろうか。

 今だから、僕の取材の限りを書いてみたい。実は、実は…前阪神監督の金本知憲は新井貴浩を来季タイガースに招聘する腹案を温めていた。もちろん指導者として。それこそ禁じ手だし、新井が二つ返事で引き受けたとも思わない。それでも、金本は「新井の心」こそ今の阪神に不可欠なものだと感じていた。それは確かだと思う。

 「ファンに喜んで貰って、チームメートと喜び合いたかった」。そんな新井の夢は叶わなかった。 カープはかけがえのない心に別れを告げる。拠りどころを失った「家族」で再出発する4連覇への道を僕は注目したい。=敬称略=

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