18年前の控室で…
【12月3日】
昨年は晴れの舞台に立ち会わなかった。18年度阪神新入団会見の日、僕は横浜で大和のDeNA入団会見を取材していたからだ。
あの日、会見後の大和を待って一緒に横浜公園の並木道を歩きながら、阪神の思い出に浸った。
「プロ野球選手というのは、輝ける時間が本当に少ないので…」
積もる話をあれこれ聞かせてもらったけれど、この言葉がずっと耳に残っている。「じゃ、新入団の頃の自身に伝えられることがあるとすれば?」と問い掛けると、大和は間髪入れず、こう返した。
「早く1軍に上がって、早く1軍に定着すること、と伝えます」
高校卒業後、18歳でこの世界に飛び込んだ彼は30歳でFA権を行使。12年前を振り返り、自省を込めてそんなふうに語ったのだ。
焦らず、じっくり…。新人、特に高卒の選手に対してよく聞く入団時の激励である。1年目、2年目はプロで活躍できる体作りが大切だし、とりわけ故障経験者には「焦らずに!」は正しい。だが、その一方で大和発言が染みたのは「焦らず、じっくり」をはき違え人気球団の甘い汁に溺れた選手を何人か見てきたからである。
2000年から阪神取材に関わるようになり、はや18年。ドラ2の小幡竜平、ドラ5の川原陸が生まれた頃からこの球団を近くで見てきたわけだが、いわゆる〈阪神病〉に陥らず、一流の域まで達した選手はごく僅か。生え抜き育成の使命感を説いた前監督の金本知憲は「投手はまだ育っているほうだけど、野手でレギュラーに定着したのは(近年では)鳥谷だけ」と、口癖のようにこぼしていた。
鳥谷だけ…見渡せば確かに。でも正確にいえば、もう1人いる。
「お前、外野のどこを守っていたんだっけ?」
「センターです」
「ちょうどセンターが空いたから、頑張ってくれ」
これは2000年12月14日、阪神新入団会見の控室でやりとりされた、ときの監督とドラフト4位ルーキーとの会話である。同年28本塁打し、ベストナインに輝いた新庄剛志がメジャー移籍…。そのルーキーは控室を出ると、フラッシュを浴びながら、ぶちあげた。
「来年活躍したら背番号を一ケタに変えてもらえると約束してもらいましたので、新庄さんの穴は僕が埋めます」
赤星憲広が宣言通りの活躍で新人王、盗塁王、おまけにゴールデン・グラブ賞まで獲得するなんて知将ノムさんでさえ、想定できなかった。あろうことか「新庄さんの穴」発言を聞き流していた当方なんて、お話になりませんが。
赤星は志半ばで引退することになったが、この20年間で赤星と鳥谷はレギュラーどころかレジェンドの域まで達したわけで。僕の見てきた限り、そんな2人の共通点は〈1年目はじっくりゆっくり〉なんて考えもしなかったこと。高卒の大和が新人時代の自分に「早く1軍に…」と伝えたかったほどだから、そうなのだ。さて、これと似た空気を感じる19年度のルーキーは…いるぞ。=敬称略=