エースと四番を育てる環境
【3月3日】
小久保裕紀と新井貴浩が沖縄でキャンプ談議する場に居合わせた日があった。2月末のことだ。
新井は小久保に言った。
「ギータはフリーバッティングで全球フルスイングしますよね」
それがホークス柳田悠岐の代名詞だから、特に驚きもせず聞いていたのだが、新井はこう続けた。
「僕もそうでしたけど、ある程度経験を積むと、少し抜く時間も出てくるじゃないですか。ギータを見ていると、それがない。全く抜かずにすべての球を全力で振るんですよね。凄いなと思って…」
ホークスのレジェンド小久保はふむふむと耳を傾けながら、昔を思い出すようにこう返した。
「俺らの頃からそうだったんだけど、バッティング練習中に少しでも(スイングを)緩めると王さんに怒られたんだよ。抜くなと」
評論家1年生の新井はこの春、12球団すべてのキャンプ地へ足を運び、球団それぞれのカラーを感じ取ったことを小久保に伝えた。
「キャンプって、どこもやること(メニュー)はそんなに変わらないじゃないですか。でも、チームの雰囲気は、それぞれ違うんですよね。一日お邪魔しただけでは分からないことも多いと思いますが、僕が見た限りでは、ホークスのキャンプが一番ピリッとした空気が流れていたように思います」
ホークスが日本S連覇した環境がこれであり、また、柳田や千賀滉大が一流に育った環境がこれであるならば、ホークスと両者にとってそれが正解ということだ。
きのう書いたが、今回タイガース1、2軍の福岡遠征で僕が2軍戦の筑後へ足を運んだのは、育成枠ルーキー片山雄哉を見たかったから。2月、安芸から沖縄まで聞こえてきたのは、100%フルスイングする彼の練習姿勢だった。
今回遠征に帯同していた球団副本部長の嶌村聡に聞けば「片山の育成1位は(ドラフトで)当初から予定通り」と教えてくれた。嶌村と話していて思い出すのは、この人がかつて野村克也の右腕(阪神監督時代は専属広報。楽天監督時代は楽天球団のフロントマン)として重宝されたことである。
阪神復帰後もドラフト戦略はやはり「ノムラの考え」が活きているか?そう尋ねると、嶌村は「ドラフトというより編成かな。これからの時代は編成部が会社の心臓部になると仰っていた」という。
野村克也の持論に「エースと四番は育てられない」がある。野村は自らの著書で「真のエースと四番と呼べる選手はその役割を期待されて即戦力で入ってきた選手か他球団でそういう存在になってから移籍してきた選手ばかり。無名選手として入団し、二軍から這い上がってきたような選手はほとんどいない」と記す。今も野村を慕う嶌村だけど「ノムラの考え」を覆す選手の台頭は大歓迎だろう。
広島経済大出身の柳田をドラフト上位指名に推したのは王会長だったと聞いた。千賀はご存じ育成上がりである。阪神と、阪神で一流になるべき選手にとって然るべき環境を整えるのもまた嶌村の大きな野心だと思う。 =敬称略=