金本知憲から横田慎太郎へ

 【9月22日】

 神出鬼没ですね。よくそう言われる。昔、尊敬するデイリーOBから言われたことがある。「お決まりの時間に、お決まりの場所へ出勤する記者がエエ原稿なんか書けるか」。僕もそう思う一人だ。

 この日の取材先は鳴尾浜球場である。ウエスタン・リーグ、オリックス戦が主目的ではない。来季へ向けた諸々の取材、そして…。

 「あれ?どうされたんですか」 馴染みの夕刊紙記者が夕方までずっと、甲子園ではなく、鳴尾浜にいた。この男を見掛けたファーム関係者は、「きな臭いネタ探してるんでしょ」とイジりまくる。

 「お前こそ、なんで鳴尾浜にいるんだよ?気持ち悪いなぁ」。当方も負けじとイジってみると、その記者は言う。

 「巨人の優勝が決まった以上、僕の仕事はグラウンド外です」

 媒体の性質上、確かにそうかもしれない。ストーブ・リーグが熱を帯びる此のほど、夕刊紙がストレートに近本光司の安打数を称えることはない(と思う)。

 「ま、来季の人事とか…いろいろです。風さんこそ、きのうは球団幹部を取材されていたじゃないですか。原稿、読みましたよ」

 この男、ちゃらんぽらんなように見えるけれど、アンテナだけはあちこちへ張り巡らせている。

 当方の「一番のお目当て」といえば、横田慎太郎である。

 横田と長い時間を過ごしたファームの面々と話をすれば、それぞれの感慨が溢れる。正直、それらエピソードを聞いているだけで、鼻がツンとなり…。

 脳腫瘍の手術明け、ファームに合流した横田を称える者は口を揃える。「準備が素晴らしかった」と。試合でも、練習でも、選手の中で一番に姿を見せ、一番にトレーニングを開始する。書けば簡単なようだけど、このルーティンの継続は生半可ではできない。

 そして色んな人に話を聞いていると、必ずといっていいほど、こんな声が聞こえるのだ。

 「僕(私)なんかが語るより、横田のことは金本さんに聞いてください。球団関係者の中で、金本さんが一番お見舞いに行っていたと聞きますので」-。

 へぇ…。知らなかった…。

 「娘が横田のことを好きだったから、一緒に(病院へ)連れて行ったよ。田中秀太(=横田のスカウト)に聞いたら、(横田は)肉が好きだっていうから、牛宝の焼き肉弁当を持っていったりな…」

 金本知憲に連絡してみると、そんな思い出を明かしてくれた。

 近親者に聞けば、金本から横田が好物の高級寿司、高級肉の差し入れ、そして、「足しにしてほしい」と、相当額の入院費の援助もあったという。

 「病気が病気だけにな…。まだ若いから、野球よりも身体を大事に。いい選択をしたと思う…。あれだけガムシャラに一生懸命プレーするやつは何とか(一人前に)してやりたかったな…」

 そんな金本の思いは横田に伝わっている。そして、横田の思いはタイガースに永久に残っていくと信じている。=敬称略=

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