一流は風合いで見分ける
【2月5日】
侍ジャパン監督の稲葉篤紀が宜野座へやってきた。代表のコーチ陣、スタッフがこぞって集結したものだから空気は変わる。当方の取材はやはり稲葉の視線の先=阪神の「侍候補」を探りたくなる。
「野手ですか?近本がどうか、というところですね」。五輪代表について本紙の侍担当はそう語る。確かに、昨年の「WBSCプレミア12」で優勝したメンバーが〈本線〉と見るのが妥当だろう。ご存じのように同大会の虎侍はゼロ。そこに割って入る候補がここから出るか、どうか。稲葉が名前を挙げた岩崎優、高橋遥人ら虎投はもしかしたら…と期待がわく。
一方の野手は、現状では期待薄か。というのも、野手枠はわずか12名という狭き門だ。東京五輪で近本光司を見たい虎党は多いだろう。だって、だって、夏の1カ月間、プロ野球休止ですよ?デイリー読者が息苦しい夏を過ごさなければならないのは、心苦しい。僕も近本の選出に興味があるけれどさて、稲葉の心はどうだろう。
もう1人、いる。
我らが梅野隆太郎である。
梅ちゃんは昨年のセ・リーグゴールデングラブですよ。2年連続のGG賞ですよ、稲葉サン。
後押しするバッテリーコーチ藤井彰人は言う。「2年続けてゴールデングラブを取ってるんやから本来は選ばれないとあかん選手ですよね」。日本で「最も技術が高い捕手」の称号は尊い。今や野球少年の間では、捕手といえば、パの甲斐拓也。セの梅野である。
「我々としても大きいですよ。ウチの社は、これまでどうしてもキャッチャーミットのイメージが薄かったんですけど、梅野選手のおかげで変わりましたからね」
宜野座でそう語るのは、梅野とアドバイザリー契約を結ぶSSKの担当者である。GG賞が発表された昨秋、同社が催した展示会では梅野モデルの反響が想定を超えるほど大きかったそうで、限定200個のミットは即完売したという。少年野球などアマチュア界の〈ミットシェア〉まで一変させた梅ちゃんの功績はハンパない。
「風さんが見ても絶対見分けがつかないと思うんですけど(笑)梅野モデルのミットの皮って、どんなものかご存じですか?」
いえ…。存じあげません。
「グラブの皮の種類は大きく分けて2つ。0歳から2歳の仔牛の皮をキップレザー。2歳からそれ以上の牛の皮をオーバーキップ、またはステアというんですけど、梅野選手はキップ。人間もそうですけど、牛も赤ちゃんの皮膚はきめ細かいんです。昔は両方選べるほどあったんですけど、今はキップが希少で、選べないんですよ」
キップかステアは個々の好みというが、超一流でいえばあの黒田博樹はキップ派で、職人が変わっても見分ける。「梅野選手も見分けます。風合いで」と同担当者。格付けチェックは一流である。
稲葉が目を凝らした宜野座のブルペンで梅野の捕球音が響く。侍から牛へ話がそれたけれど、違いが分かる、きっぷの良い男を東京五輪へ送り出したい。=敬称略=