カテナチオのように

 【7月12日】

 サッカーに縁遠い方、ごめんなさい。束の間タイガースを離れ、熱狂しました。UEFA欧州選手権決勝でイタリアがイングランドを下し13大会ぶり2度目の優勝。主将のコメントに胸が熱くなり。

 「最悪な形で試合がスタートした。でも、我々は冷静で落ち着いていた。それが大事だったんだ」

 所属クラブのユベントスでも主将を担うDFキエリーニがそう語ったように、堅い守りのイタリアが開始2分で失点するという想定外の展開になった。しかし、イタリアは後半同点に追いつき、さらに延長でも決着つかず、最後はPK戦による〈サヨナラ勝ち〉。表彰式でキエリーニは涙していた。

 イタリアのA代表のタイトルは06年のドイツW杯優勝以来、15年ぶりとなる。だから、今回の欧州選手権制覇まで、それが「アズーリ最後の栄光」といわれていた。

 男泣きするイタリア代表の面々を眺めながら、ほぼ同じブランク…05年以来16年優勝から遠ざかる猛虎、そして涙の矢野燿大と重ねてしまうオッサン記者である。

 06年のW杯を制したイタリアは当時の監督マルチェロ・リッピが興味深い発言をしていた。あの決勝戦(フランス戦)も最後はPKでの〈サヨナラ決着〉になったわけだけど、名将はこう語るのだ。

 「選手たちは試合中のムードをPK戦に持ち込むものだ。良いときはみんな『オレが蹴ります!』って言ってくるが、そうでないときは、ちょっと消極的になる」

 「(06年のW杯決勝では)嬉しいことに、『俺、蹴りますよ!』とみんなが言ってくれてね」

 (「Number」より)

 PKはキーパーよりもキッカーに重圧がかかる為、なでしこで世界一になった澤穂希でさえ嫌がって蹴らなかったほど。しかしチーム状態が良ければ皆「俺がいく」となる。リッピはそう証言した。

 サッカーに限らず、勝つ為に必要なのは結局そんな攻めのムードなんだと思う。この夜の甲子園には、確かに気配があった。連敗中だったから、雰囲気がベストなはずはない。J・サンズの痛い失策も出た。でも、どうだろう。好投手を打てずとも、守備では気持ちで攻めていたではないか。

 振り返れば二回の守り。牧秀悟の叩いた三塁前へのボテボテの打球、見送っていればファウル、そんなゴロに対し大山悠輔は攻めの姿勢でチャージした。三回2死のピンチでも、オースティンの三塁ゴロを逆シングルで堅守を見せた。中野拓夢が惜しくもカバーしきれず走者を残してしまった同回の守備も、青柳晃洋のフィールディングは攻めていた。大山は六回にもオースティンの難しい打球を好守。それもこれもサヨナラ打と無関係のはずがないのだ。

 イタリアサッカー伝統の固い守備は「カテナチオ」と呼ばれる。「ゴールにカギを掛ける」という意の言葉だ。打てないことを嘆くより、まずは本塁に鍵をかける。この夜のように攻めの気持ちで守っていけば、光は見える。主将・大山悠輔が冷静にそれを証明した劇的なゲームだった。=敬称略=

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