がんばれ!と言えた夜
【9月7日】
DeNA宮国椋丞がかつての仲間に立ち向かった。移籍後初登板初先発の相手が巨人になるとは、野球の神様のイタズラか。矢野阪神の戦況を見守りながら、横浜スタジアムのそれも気になった。
がんばれ宮国…なんて昨年まで大きい声では言えなかった。彼が活躍すればそれはすなわち…しかも、阪神相手にビシバシ投げてもらっちゃホンキで困る。そんな思いで遠くから眺めていた。
なぜ彼のことが気になるのか。
あれは2010年のドラフト。
当時、阪神が糸満高校のエースを指名するかも…そんな情報を得た僕は荒天のなか沖縄へ飛んだ。暴風にあおられながらレンタカーで那覇から本島南部へ。そこで初めて話したうちなんちゅはとても朗らかでナイスガイだった。
なんやねん…巨人2位かよ。
「1面」書く気満々で飛んできたのに…なんて糸満高校の会見場でブツクサ言っていると、教頭先生が「取材される方、こちらへどうぞ」。言われるがまま地元の報道陣とともに体育館へ。
「私、デイリースポーツの阪神担当なんですが、唐突でごめんなさい…宮国君にとって甲子園ってどんなイメージの場所ですか?」
応じてくれたサシ取材。3年夏は沖縄大会決勝で夢を逸した彼にそんなふうにぶつけてみた。
「阪神ファンの声援がすごいというイメージですね…。あの大声援のなかで投げてみたいです」
宮国がプロ初登板初先発初勝利を挙げたのは、その2年後。よりによって甲子園の阪神戦だった。
7回1失点。巨人の高卒2年目に記念星を?なんてこった。当時サッカー担当だった僕はその場にいない…というか、いなくて良かったかも…。
あれから12年。ちばりよ~と大きな声で言えたこの夜。宮国は尊敬する菅野智之と投げ合い、5回2失点。DeNA打線が爆発し、記念すべき移籍初勝利を挙げた。
おめでとう…。
宮国を追った10年度ドラフトといえば、なんといっても目玉はハンカチ王子、斎藤佑樹だった。
あのとき、阪神は佑ちゃんにいかず、ヤクルトは佑ちゃんにいった。結果的には、両軍とも本命のクジを外し、阪神は1位で榎田大樹。そしてヤクルトの1位は…
「タイトルは全部欲しいです。(1軍のレギュラーになって)甲子園にも帰ってきたいです」
当時の新聞を広げてみると、履正社で甲子園を沸かせた兵庫出身の18歳は野心を隠さず…
夢をどんどん叶える山田哲人はこの日、青柳対策でスタメンを外れた。というか…それにしても、一昨年のドラ1はいい投手だな。
奥川恭伸である。選球眼の鬼、J・マルテが外の変化球にこれほどクルクル回るなんて初めて見たような。それだけ、彼のボールがキレキレだったのか。
7回無失点?甲子園初勝利?
なんてこった。
29歳になったうちなんちゅが巨人に牙をむいた夜、阪神は高卒2年目に…。ああ、助かった。ありがとう、糸満の誇り。=敬称略=