ぜひ、夢の続きを
【10月4日】
金本知憲の恩人に会ってきた。平岡洋二という名を聞いたことがある読者も多いと思う。阪神ファン、カープファン…プロ野球、いや、Jリーグや他競技のファンからもよく知られる人物である。
平岡が名を馳せたのはご存じ、1989年の秋に広島市内に立ち上げたトレーニングクラブ「アスリート」での指導である。
金本のほか、新井貴浩や鈴木誠也、丸佳浩、そして、ダルビッシュ有や中田翔…挙げればキリがない野球人が門をたたいた同クラブが、30余年の歴史に幕を閉じる…そう聞いて、平岡を訪ねた。
「いま、島根にいるよ」
「アスリート」は既に〈引っ越し〉の準備を始めているため、もうお邪魔することが叶わない。
早く教えて下さいよ。そうクレームをつけると、平岡は笑う。
「もう2年ちょっと前から考えていたことだから。コロナ?それはまったく関係ない」
僕自身、2年ほど足が遠のいていたけれど、それ以前は、幾度取材でうかがったか数え切れない。阪神が広島遠征すれば必ず…選手が不在でも、平岡と話すのが楽しくてお邪魔したこともあった。
「もう、十分やらせてもらったよ。数々の素晴らしい選手とも出会えたしな…」
広島市内を走るアストラムライン(鉄道)牛田駅から徒歩3分。四季を問わず通った伝統ジムの閉館は僕にとっても一大事なんだけど、新たな道、いや、第2の夢を模索する平岡の相好にセンチメンタルな色は滲まない。宍道湖(しんじこ)のほとりでランチしながら平岡に愚問をぶつけてみた。
「アスリート」で一番の…
「もちろん、金本だよ。トレーニングに来た回数が1500回をゆうに超える。ケタ違いだから」
金本の殿堂入りパーティーの際平岡は「彼はアスリートの最高傑作」だと話していた…だから、答えはひとつだと分かっていながらしかし、閉館のときだから、あえて聞いてみたのだ。
1500日以上通った…つまり金本の現役「21年」で割ると、毎年(主に)オフに70回以上か。確かに、阪神移籍後も金本の所在は誰に聞かずとも分かった。
「もう、閉館したんか…」
鉄人も感慨深げだ。
「まあ、もし俺があそこへ行ってなかったら、選手としてはすぐに終わっていたのは間違いない。上半身、下半身…全身をバランス良く鍛えてもらったよ。サボりたいときも、(平岡さんが)背中を押してくれたしな」
島根から帰り、金本に連絡してみるとそんな言葉が返ってきた。
そうそう。なぜ、平岡は島根にいたのか。ご存じの方も多いけれど、「アスリート」とほぼ年数が重なるのが、良縁で続ける開星高校でのトレーニング指導である。
「今の自分の礎を築いてくれました。感謝しかないですよ」
開星OB糸原健斗に聞けば、平岡への恩義をにじませる。
平岡はこれまでの経験を財産に新たな形で指導に携わる…夢の続きはまた後日。=敬称略=
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