野球を楽しんでほしい
【11月24日】
自分のこどもをプロ野球選手にしたい-。愛息の夢を叶えるため親は少年野球の「チーム選び」に奔走する。少しでも名の知れた強豪に入団させたい。日本のジュニア世代でよくある話である。
プロになるには、まず甲子園…すべてとはいわないが、概してそこから逆算から始まり、少年時代から強いチームで鍛えてもらいたい。そんな観念がはたらくのは常だと思う。もちろん、様々な「成功例」があるので、ここに書くことが絶対なんて強調するつもりはないけれど、野球振興の観点からきょうは「別の道」もありますよ…というハナシを書く。
きのうの続きである。
智弁学園の主砲として甲子園を沸かせ、阪神からドラフト指名された前川右京を知らないデイリースポーツ読者はいないと思う。ご存じのように、智弁といえば今夏も甲子園の決勝まで進んだ、いわば、全国屈指のプロ野球選手養成校である。そんな学校に進み、しかも甲子園大会でメンバー入りするような選手は全員ジュニア世代からのエリート。さぞかし、少年時代も強豪クラブでプレーしていたと思われがちだけど、必ずしもそうではない。
前川の親友で、智弁で共に準優勝メンバーとなった安藤壮央という捕手(3年)は西宮出身。親元離れた寮生活で鍛えられ、最後の夏もメンバー入り。甲子園で躍動した18歳だが、小学時代は地元の無名クラブ「苦楽園オールヒーローズ」でプレー。強豪とは程遠いほのぼのチームで育った。
「野球を楽しんで欲しかったんです。当時、ほかのチームも体験で見に行きましたけど、野球を楽しくやってなかったんですよ」
壮央の父で元千葉ロッテの外野手・安藤学に聞けば、そう語る。
阪神投手コーチ福原忍のお子さんも同じチームでプレーしたが、安藤も福原も同様の「哲学」でこのチームに入団させたのだ。
双方とも大声では言わないけれど、息子の夢を叶えてやりたい思いは当然ある。それでも、あえて強豪に入団させなかった。縁あって僕も2人のお子さんを見てきたが、グラウンドでは、天才でもスペシャルでもなく、ただ、笑顔でボールを追う野球少年だった。
小学生のころから勝利至上主義でゴリゴリやらせなくたって、プロ野球に挑戦できる。自身がそこまで辿り着いた経験者だから、それがよく分かるのだろう。
ジュニア世代の競技人口が年々減っている。少子化が理由にならない程の「野球離れ」はなぜ続くのか。大谷翔平が世界一の選手になったことで一時的に「歯止め」がきいたとしても、それが特効薬にならないと危惧する関係者は多い。カネがかかる…それだけではない野球離れの理由を直視してみると、ジュニア世代のあり方がその主因であることに気付く。
心から野球を楽しむ。少なくとも少年時代はそれが全てでいいのでは…。まずは〈底辺〉を支えることから始めたい。見応えたっぷりの日本シリーズを楽しみながら思う。続きは次回。=敬称略=