「永久追放」のリスク
ポーン…。午後3時を知らせる時報の直後、僕もなじみ深い大阪の放送局がラジオで「お詫び」した。西宮の阪神球団事務所でこの放送に耳を傾ける職員が…そして幹部もその内容をチェックした。
「先週12月20日の(ラジオ)放送で阪神タイガースの特定の選手の名誉を傷つけるような発言がありました。選手、および、阪神タイガース球団、ファンの皆さまに大変なご迷惑をお掛けしました。ここに深くお詫び申し上げます」
阪神担当の記者、そして、僕の知る東京のプロ野球担当の各記者も同局、同番組の対応に注目し、ラジコで確認したという。
読者もご存じの通り、先週月曜日、阪神の特定の選手に「サイン盗み」があったと思わせるような発言が、同番組のパーソナリティーから飛び出したことで、プロ野球界隈のSNSが大きな騒ぎとなった。阪神球団はこの発言を重く見てすぐさま同局に抗議。広報部の責任者が看過できない旨を伝えしかるべき対応を求めていた。
先週末、同局は球団へ出向き、正式に謝罪。番組内でお詫びすることを約束し、収拾した…これが経緯だと聞いているけれど、取材の限り、今回の発言に対する球団幹部、フロント、チーム首脳の憤りは相当なものだった。
「タイガースはサイン盗みが事実でないなら抗議すべき。逆に抗議しないなら認めたも同然」
同ラジオの発言を取り上げたYahoo!ニュースの書き込みにこんな投稿があったと後輩がLINEをくれたので記しておけば、球団幹部は「野球界、また、当該選手に対する最大の侮辱」だとして断固抗議の構えを見せていた。
「やっぱり、やってたんじゃないか」-ネット上、この類の阪神バッシングが燃えさかり、矢野燿大、そして数人の選手への疑惑が瞬く間に広がったことを踏まえれば、今回の即応は頷けるが、阪神ファン、プロ野球ファンが真相を知りたくなるのは当然だ。
文春サンの手を借りたくなるくらい、オッサン記者はあらゆるコネクションを使い、奥の奥まで取材してみた。まだ取材途上だが、ひとつ言えることは、球団内外、どんな立場の者も「なかった」と「証明」することは叶わない。今ここで僕が書けることは「なかった」というよりは、「やれるはずがない」という答えである。
どういうことか。
セ・リーグのアグリーメントでは「ベンチ内、ベースコーチ、走者から、打者、あるいは、塁上の走者に対して球種等の伝達は行わない」旨の記載がある。かつて日本、そして、17年には米国球界で厳罰が下された「サイン盗み」は阪神球団副社長の谷本修にいわせれば「同様のことがあれば永久追放を検討すべき事案」であり、阪神選手には、その旨が伝わっている。そもそも、選手、指導者同士がグラウンドレベルでやり取りする事案ではない-ということだ。
「永久追放」のリスクを負ってまでやることか?というハナシである。続きはまた来年。皆さま、よいお年を…。=敬称略=