偉くもなんともない

 【1月11日】

 藤浪晋太郎が無双だった甲子園大会を思い出した。全国高校サッカー選手権、第100回大会の決勝戦である。青森山田の圧倒的な強さは、あの夏の大阪桐蔭を彷彿とさせるもので…。

 正月の高校サッカーは節目の記念大会だった。ご存じのように、下馬評でも他を凌駕していた青森山田が国立で大津を4-0で下し3大会ぶり3度目の全国制覇。高校総体、高円宮杯プレミアリーグイーストに続く優勝で、いわゆる「3冠」を達成したわけだけど、主将で司令塔の松木玖生(まつき・くりゅう)は、将来日本サッカーを背負って立つ原石であり、そういう意味でも、僕のなかではあの夏の晋太郎と重なったのだ。

 周りから「強い」と評される中で勝ちきる。簡単じゃない。晋太郎の94回、そして100回大会の高校野球では、激戦の大阪予選、そして甲子園で1つも負けず、桐蔭が頂上まで駆け上がった。しかも春夏連覇…こちらシロウトには想像がつかない世界である。

 ひとつも負けなかったやん?トーナメントだし、ほんの少し歯車が狂えば、あるいは、少し綻びがあればポロッと負けるもの。相手だってツワモノなんやから。

 いつだったか、晋太郎とテーブルを囲んだとき、そんなふうにぶつけたことがあった。彼は「ですよね…」と笑っていたけれど、それでも負けなかったのはなんで?そう聞けば、こう答えていた。

 「力的には自分たちの一個上の代のほうが強かったと思うんですよ。僕らはどうなんですかね…」

 晋太郎は〈もしかしたら、こんな要因があったかも…〉というニュアンスで話してくれた。

 「緻密さ、精神的な強さ。流れをもってくる力とか空気。ここ一番で流れを引き寄せられるかどうか…。あと、西谷監督からは『絶対、隙を見せるな』と…。隙を見せたらすごく怒られました」

 うん、なるほどと頷いた。でもオッサン記者には理解できない。そう答えた。だって、言葉では何となく解釈できたとしても、実感としては、その景色を拝んだ者にしか分からない世界だから。

 晋太郎が、高校球児誰しもが勝ちたい春と夏を勝ちきった。そのチームの中心になれた理由は僕のアタマでは、ひとつ答えがある。努力はもちろん、能力や運、仲間に恵まれたうえで、さらに、彼はもうひとつ、何物にも代え難い尊いものを携えていた。

 人柄である。

 僕はそう信じている。

 「強い」といわれて勝ちきった青森山田を見ていて思った。やはり、指導者なんだろうな、と。

 高校サッカー選手権で6度の全国制覇を遂げた小嶺忠敏(こみねただとし)が7日、76年の生涯を閉じた。実績からして、高校球界では晋太郎の恩師、西谷浩一とかぶる存在でもあるけれど、その名将がかつて教え子に口酸っぱく伝えていたこと、それは…

 「サッカーが少しくらい上手だからって、偉くもなんともないんだぞ」-。

 続きは次回。=敬称略=

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