今成スカウトの目処
【3月4日】
ゴー!いや、ストップか。三回楽天の攻撃である。左前打で出塁した渡辺佳明を一塁に置いて打者山崎剛への2球目変化球がワンバウンドになった。梅野隆太郎がはじいた球は左打席の後方へ…。
楽天が1点を追う戦況で初球のバントがファウルになった山崎剛は、再びバントの構えだった。投手は青柳晃洋。敵陣目線なら1死二塁をつくり、1番の西川遥輝へ繋げたい場面。「鉄壁」梅野がワンバンをそらした好機で一塁走者の渡辺は反応しなかった。走者はワンバンしそうなローボールを見極め第二リード最後のステップで右足に体重をかける。かつて盗塁王を獲った正田耕三(05年優勝時の阪神コーチ)から聞いたハナシを思い出した。横浜高元監督・渡辺元智を祖父にもつ渡辺佳明は当然そんな技術も知るだろうし、ここで渡辺の走塁をどうこう書くつもりはない。僕の関心は梅ちゃんの「抑止力」へ向く。
肩はクエスチョンマーク。そんな事前情報があれば敵陣は容赦しないし、躊躇なく次塁へチャレンジする。梅野の鬼肩は健在-本番までにそんな印象を植え付けることもこの時期の作業になる。キャンプ序盤から梅野が肩に違和感を…虎番からそう聞いたものだから心配していたけれど、先月からの実戦を見る限り問題なさそうだ。
一方の渡辺佳明は以前も書いたけれど、当欄の注目選手。売りは「打」。この日も2安打。宜野座で阪神投手陣が完封した楽天戦でも、彼はヒットを打った。どんどんストロングをアピールすれば助っ人も主力も脅かす存在になる。
梅野は肩とブロッキング。輝は長打。近本は…。大山は…。糸原は…。レギュラーは必ず何か他者に負けない強み=一芸を携えている。大谷翔平みたいに万能ならいうことはないけれど、この世界ではなかなか叶わない。だとすれば…。そんなことを考えながら、あるレジェンドを思い出すのだ。
この日、悲しみを胸に、鳴尾浜球場で若虎を指導していた和田豊テクニカルアドバイザー(TA)である。
「俺は一芸に秀でた選手じゃなかったんでね…」
和田と話をすれば、昔を懐かしみながら「恩人」を偲んでいた。
2日夜、日本ハム今成泰章スカウトが劇症型溶血性レンサ球菌感染症のため急逝した。今成は阪神スカウト時代に和田を見出し、プロ入りに不安を抱えていた和田の母親を説得した逸話がある。
お母さん、豊君のバッティング技術があれば大丈夫ですよ-
今成はそう語ったのか。
いや、そうじゃないという。
「当時目に付いたのは、技術というより『キレ』だったと思う」
和田は今成から掛けられた言葉を思い起こし、僕にそう語る。
「トータルで何でもできる。ひとことで言うと、何らかで役に立つという目処が(今成スカウトの中に)あったんじゃないかな、と推測するけどね…」
しかし、そこから今成の期待を良い意味で裏切る和田の努力が始まる。続きは次回。=敬称略=