ドッキリじゃない?

 【5月9日】

 あした雪が降るぞ。子供時分、勉強嫌いが机に向かっていると、そんなふうに親に冷やかされたものだ。らしくない、珍しいことをすれば、季節問わず雪が降るぞ、と。しかし、さすがに5月は…

 いや、降ったそうだ。

 ゴールデンウイーク明けの8日朝、岩手県北部で季節外れの雪が降った。初夏の陽気から一転して季節外れの雪景色。気象台によると、同県内の観測では統計開始以来、過去最も遅い積雪となったという。

 鯉のぼりの季節に雪!?

 おいおい、あした雪が降るぞ。いや、ホントに降ったのか。ん?何をワケわからんことを…。

 フィールドで過去に例がないことが起こる。その目撃者になる。僕らのシゴトの醍醐味である。

 村上頌樹が球団の歴史に名を刻んだ。巨人戦で7回パーフェクトをやった夜は、おいおい、あした雪か?と、もしかしたら彼の近親者は思ったかも。でも、いまの村上なら、何をやり遂げても「雪が…」とは誰も思わない。

 三回、五回…イニング間にグラウンドにかけだした阪神園芸も整備に力が入ったはずだ。

 「雪?いや、雪は…」

 阪神園芸・甲子園施設部長の金沢健児に、甲子園で積雪を整えた経験はあるか?と聞いてみたけれど、さすがにそれはないか…

 「いや、あるわ。確か94年の2月。Jリーグのプレシーズンマッチを甲子園でやったことがあってそのとき雪を整備したよ。ガンバ大阪対ヴェルディ川崎。大きな雪ダルマができてね。風ちゃん、まだ働いてない頃ちゃう?」

 30年近く前だから僕もまだデイリースポーツに就職していない。

でも、何となくニュースの映像を覚えている。98年生まれの村上がそれを知る由もないが、青い芝が雪化粧する甲子園で白球が弾む…ちょっと見てみたい気もする。

 この夜ベンチリポートを担ったABCアナウンサーの高野純一に聞いてみた。もしこの季節、甲子園に突然雪が降ってきたら、どう実況する?

 「雪…。雪が降ってきました。ドッキリじゃないですよね?」

 高野アナは冷静に視聴者にそう伝えるそうだ。

 投手が素晴らしければ守りも締まる典型的な試合だった。できることなら高野に村上のヒーローインタビューを担当してもらいたかったけれど、こんな夜もある。フライアウトピッチャーがおもしろいようにフライアウトを取る。ヒットになっても、ポテン安打。記録更新への機運も高まったが、不運は大きいフライを浴びて、それが強い浜風に乗ったこと。村上はそんなふうには思っていないだろうけど、僕はそう割り切る。

 いやはや、長い間このシゴトをしていると、いろんなことが起こる。村上がマウンドを降りた八回に電光掲示板が消えてしまった。聖地甲子園でこんな珍事、過去にあったっけ?試合後、岡田彰布は「あんなん初めてや」と言った。

 ドッキリじゃないですよね?

 あした雪かな?=敬称略=

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