守れなかった約束への悔恨
【10月15日】
スコールで視界が遮られる中、猿が何匹もが猛スピードで車の前を横切った。危ねっ…。急ブレーキをかけた。
え!?このへんに猿山なんてあったっけ?びっくりしてしばらく放心した。
いま、そこでサルの親子が…。
「昔からサルもシカも出ますよ」
西都原(さいとばる)運動公園の警備員さんが教えてくれた。フェニックス・リーグ「ヤクルト対阪神」の取材で宮崎県西都市までやって来たけれどあいにく雨天中止で若虎は室内練習場で汗を流していた。それにしても想定外、予想外のことはいつどこで身に降りかかるか分からない。この歳になれば経験則である程度不意打ちの心構えもあるつもりだが、レンタカーで猿の群れをひきそうになるなんて…。
想定の外だった…。藤川球児新監督の就任会見、その日程である。CSは勝ち上がる。確信の見通しで10月半ばの日程を組み、強行軍だけど宮崎へも行ける…。そんな算段は外れた。
眩い晴れの所信表明はぜひとも現場で聞きたい。しかし、いま僕は雨空の宮崎でこれを書いている。
まだ前監督の去就が様々語られる随分前に、ファームのある首脳と宮崎で食事する話になった。球児新監督も間違いなく大切に思っている人。しかも僕から誘った約束だ。自分の見通しが及ばなかった…というしかない。
約束を守ること-。新監督の哲学にあるものと信じる。球児のMLB時代にそれを守れなかった僕が書くのもおかしいけれど…。
あれは2013年。球児が移籍したカブスのキャンプ地アリゾナでインタビューさせてもらった。メジャー1年目の胸中を飾らず明かす流れで古巣阪神への思いにも触れた。僕は原稿の比重をそちら「阪神を語る球児」に置いて紙面化したのだが、帰国後、球児がかねて「古巣を評論するようなことはしたくない」旨をメディアに伝えていたことを思い出した。ロングインタビューに余談はつきもの。ベテラン域の取材者にイロハのイは添えられない。完全に僕の失策。脂汗が出た。
申し訳ない…。遅ればせながら直接謝罪したのは阪神復帰後のことだ。
「ああ、大丈夫ですよ」
球児は笑ってくれたが、「約束」を守れなかった悔恨の念は今も…。
この日、新監督は理想のリーダー像を問われ「岡田監督」と即答したそうだ。恩師の体調を気遣う言葉もあったので私事を書かせてもらうが…。この夏、父が大病に伏した。7時間に及ぶ手術…毎日入院先へ通い看病の日々。父は12キロ痩せ細り、僕も7キロ痩せた。「もう言っておく」と「遺言」も伝えられた。幼い頃から影響を受けた父から教わったこと。「友達との約束は守らなあかんで」-をいま噛みしめる。
指揮官を友達なんて呼ぶことは当然ないのだが、これから現場で毎日のように顔を合わせる大切な人。気を揉まず時に余談も語る。そんな取材陣との好情な関係を壊さないようにする。
「当然、勝ちにいく」
藤川球児の「約束」。そのプロローグを見つめる秋にしたい。=敬称略=