猪八戒から学んだ「三毒」
【10月18日】
一般紙を全紙、読みあさる。もう何年も毎朝のルーティンにしてきた。特に各紙1面に掲載するコラムは欠かさず目を通すようにしている。とりわけ大きなニュースがあった翌日は…。
朝日、毎日、読売…3大紙のコラムニストは、なぜ、記さなかったのか。余計なお世話だろうけど、素直な気持ちを書けばそうだ。
この日(18日)の1面コラムで亡き西田敏行を悼んだのは日本経済新聞だけだった。
【笑顔と気遣いの奥に芯を持つ。そんな俳優人生だっただろうか】
76歳で旅立った名優について日経のコラム『春秋』はそう綴っている。
僕にとってかいもく面識のない遠い人だったけれど、訃報に触れ、寂しくも悲しくもなった。オアシスのようであったかい人柄が画面を通じて伝わってくる演者。福島出身ながら「熱烈な阪神ファン」と聞いていたので余計にどんな形でもいいからお近づきになって話を聞いてみたかった。
85年のリーグ優勝は神宮で現地観戦したと聞いた。星野政権で優勝した03年は急性心筋梗塞で入院したが「阪神が勝つうちに元気になった」「18年ぶりに生きる力をくれた」そうだ。
もしも聴けたなら、藤川球児新監督に期待するものを聴きたかった。だけど、もう聴けなくなった。
僕が俳優西田の演じる作品に初めて触れたのは猪八戒(ちょはっかい)を演じた『西遊記』だった。天竺まで旅する三蔵法師の弟子の中でもっとも欲望に忠実な豚の妖怪は食欲旺盛でオンナ好き。ちょっぴりエッチなシーンもあって幼心に西田の演技にハラハラドキドキさせられたことを覚えている。
オトナになって『西遊記』を調べて知ったことがある。三蔵法師がなぜ孫悟空、猪八戒、沙悟浄(さごじょう)をともに連れて歩いたのか。
仏教の教えで「三毒」という人間が必ず携える三つの心があり、その象徴を架空の登場人物が演じているのだ。
①貪(むさぼ)りの心=食べ物に卑しく、欲深い猪八戒。
②怒りの心=短気な孫悟空。
③愚かな心=他人の悪口、愚痴、悪巧みの多い沙悟浄。
三蔵法師はこの「三毒」の煩悩を傍に旅をし、何度も負けそうになりながら乗り越え、その三毒を克服することで天竺から経典を持ち帰る目的を叶えることができた-。いま思えば、なんだか長い旅路をゆくプロ野球の指揮官にとって悲願を叶える教訓にもなりそうで興味深い。
西田の死亡が都内の自宅で確認された17日、僕は家族用で公休をもらい、出張先の宮崎から帰阪。当欄も休載したので一日遅れで偲んでいる。
若い力を感じ取るため宮崎へ飛んだ阪神新監督の藤川球児を思う。
第36代の虎将は克服したい「三毒」があるのだろうか。就任会見で僕の琴線に触れた球児の言葉はいくつもあるが、その一つが「ここにきたら『私』はないので」-。誰がどう見ても、激務。身体だけは大切にと心から願う。=敬称略=