じゃないほうの矜持

 【11月2日】

 嵐の国道55号線を安芸へ向かうと、こぶりなレンタカーが突風で倒されそうになった。「こんなの初めてですよね」。20年近く安芸を知る古株の球団関係者も驚いていたが、その通り。

 この時期にこれほど荒々しい雨空は安芸ベテランの僕も経験がない。「誰がこんなのもってきたんや」。別の球団関係者が周りをチラ。メディア含め今回初めて安芸を訪れた新入りを「雨男(女)」に認定したがっていた。

 帰りも嵐だった。安芸のお隣、芸西村で前を走る軽トラが急ブレーキをかけた。飛んできた木々を避けようとしたようだ。小降りになるまで待つか。定休日のお店の路肩にお邪魔して…

 「ファッションショップ・よしだ」

 束の間スミマセン…ちょっと親近感をもって雨宿りさせてもらった。

 僕と同じ姓って高知に多いのか?

 安芸市の小松旅館を定宿にしていた時代、高知に小松姓が多いことだけは知っていた。ちなみに県内で藤川姓がそんなに多くないことも聞いたことがある。調べてみれば「吉田」は高知で76番目。「藤川」より多いらしい…って何の話を書いているのか。

 「ええぞ。荒々しいぞ!」

 安芸の「嵐乞い」じゃない。

 ブルペンコーチ兼BCの片山大樹がキャンプ初日からそんな声掛けで褒めていたのが来季5年目の右腕、佐藤蓮である。この日も指揮官の藤川球児、投手コーチ金村暁が見守る中、強雨が叩く屋根付きのブルペンで一球一球、大切そうに腕を振っていた。

 面識はないけど、何だか親近感が湧くのはウチの母の旧姓だからか。9月のDeNA戦でプロ初登板し、東妻、梶原、牧を三者凡退に封じたときは、ヨッシャと応援団になってしまった。

 20年ドラフトで3位入団し2年目のオフに育成契約になったが、今夏、支配下に復帰。苦慮した制球難を克服できたのは「ツーシームの握りで投げ始めて直球でストライクを取れるようになったから」だとか。

 ほう。ツーシームの握りで直球か。

 「ヤクルトの小澤(怜史)もツーシームの握りでまっすぐを投げるよね。動くし、嫌な軌道だけど、佐藤蓮のほうが小澤より動いてるよ」

 旧知のチーム関係者がそう話したように、確かに小澤の直球は「独特」と聞くし、ヤクルト指揮官の高津臣吾は「嫌な球を投げる。手放せない存在」と話していた。阪神元クローザーのR・スアレスもツーシームの握りで直球を動かし、パドレスで欠かせない存在に…。そういえば、小澤もスアレスもソフトバンク出身だけど、鷹にも育成から這い上がった佐藤がいた。

 聞けば、家族から「じゃない方の佐藤」と愛のイジりを受け、反骨心を燃やした19年ドラ1の佐藤直樹だ。佐藤輝明と同じ兵庫出身で同い年。共にドラフト1位入団だから何かと比べられるらしい。その2人の佐藤と同級生の蓮…書き方がややこしいけれど、まっすぐ書けば、皆、応援したい佐藤だ。

 きょう晴れ渡る安芸の紅白戦で荒々しい佐藤蓮のまっすぐを楽しみに。=敬称略=

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