MVPで思い出す凡事徹底
【11月26日】
NPBアワードを拝めば、あぁ、今年もプロ野球が終わったんだな…と感傷に浸る。毎年この表彰の舞台に立てるのはツワモノ揃いの世界でわずか。最高殊勲、MVPともなれば…。
阪神タイガースの球団納会で監督の藤川球児が「凡事徹底」というフレーズを使っていたので思い出した。
あれは17年のNPBアワード。セ・リーグMVPに輝いた丸佳浩は僕の取材に応え、同じ言葉を使っていた。
当時広島の主力だった丸はベストナイン、最多安打のタイトルも獲得し、表彰式の「主役」だったわけだけど、彼から「凡事-」の話を聞いたのは、高輪の高級ホテル(アワードの会場)ではなく、宮崎のキャンプ地だった。
丸はMVP表彰の直前まで秋季キャンプに参加していたのだ。
あの年、僕は連覇の広島を取材し、日本シリーズ直後のキャンプメンバーに主力も入っていると聞いて宮崎へ飛んで見ると、丸がガンガンバットを振っていた。「連ティー」では見ているこちらが吐きそうになるくらいに…。
NPBアワードへ向かう日、日南・天福球場の外で丸を待っていたら、なかなか出てこない。広報に聞けば「ずっとトレーニングしています」と…。
連覇して、いくつも「タイトル」を獲って、まだそこまでやるんかい!
待ちに待って球場から出てきた丸に聞いたのは、「シーズンが終わったばかりの秋に、バリバリ主力のあなたがどんな目的意識をもって秋のキャンプに参加したのか」ということ。
「凡事徹底…ですね。やっぱり、シーズンに入ると、どうしても数字が隣り合わせになるじゃないですか。そうなると、結果が出たときと出なかったときで、自分のやりたいことがブレるときがあるんですよ。だから基本に立ち返って、あらためてこういう方向でやっていこうと思えるのが秋のキャンプ。凡事徹底じゃないですけど、常にそれをやり続けることがどれだけ大事かということが今回のキャンプを通じて、また分かった気がします」
あのとき羽田行きの機内で原稿を書きながら丸を追ってアワードを取材したわけだけど、バシッとスーツで決めてMVPのトロフィーを掲げる男が直前まで汗まみれでバットを振っていたのだから、感服のひと言だった。
では、そんな秋の効果はどうだったのか。丸は翌18年も大活躍し、広島の3連覇に貢献。2年連続のMVPに…見事に「凡事徹底」が実ったのだ。
7年前を懐かしみながら阪神の納会で新監督が語った言葉を噛みしめる。
「2月は凡事徹底。選手たちにはオフシーズンの間に体をしっかり仕上げてきてもらい、2月はチームプレー、相手チームの攻略をやっていく」-。 凡事徹底とは?「何でもないような当たり前のことを徹底的に行うこと」(『広辞苑』)だが、球児が納会で語った「凡事-」には種々の意味が込められていたような気がする。組織に於ける個のそれと、個々によるそれ。平凡でもやり続ければ、その結晶は非凡になる。簡単なことではないからこそ球児は伝えた。=敬称略=